ある古い村に、年老いた一人の童と呼ばれる少年が住んでいた。
名前は俊、まだ十歳の彼は、村の外れにある小さな家に両親と暮らしていた。
古びた家には、周囲の人々から語り継がれる恐ろしい言い伝えがあった。
それは、かつてこの地に住んでいた者たちが子供たちを向けて語りかける、不気味な声の話だった。
俊はまだ幼いながらも、普段は無邪気で、好奇心旺盛な性格の持ち主だった。
村の子供たちと遊ぶことが大好きで、どんな時でも楽しそうに笑っていた。
しかし、話を聞いてしまったことで、彼の心には恐れが芽生えるようになった。
ある日、彼は友達と一緒に果物を採りに森へと遊びに行くことにした。
森には長い間誰も近づかなくなったと言われており、村の人々はそこに触れないことを強く勧めていた。
「俊、大丈夫か?あの森は、あんまり近づかない方がいいって、おじいさんが言ってたよ」と、友人の和也が心配そうに言った。
「でも、面白そうじゃない?行ってみようよ!」俊は笑いながら答えた。
彼のその無邪気さが、逆に和也を不安にさせていた。
彼らは少しの躊躇の後、意を決して森へと向かった。
森の中には古い木々が生い茂り、薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
俊は興奮しながらも、胸の内に少しの恐怖を抱えつつ歩き続けた。
突然、彼は耳元で「俊…」という声を感じた。
振り返っても誰もおらず、森の静けさに包まれていた。
「何か聞こえた?」俊は友達に尋ねたが、和也は首を横に振った。
「ただの風の音だよ。あまり気にするな、俊。」
だがその声は、あの先祖からの話を思い出させた。
「気を付けろ、あの声には向かい合うな」という警告の言葉が頭から離れなかった。
徐々に楽しい気持ちが消え、恐れる気持ちが満ちてきた。
さらに奥へ進むと、やがて彼らは古びた小屋を見つけた。
小屋は朽ち果てた木材で作られ、どこか恐ろしい雰囲気を纏っていた。
俊は「ここに何があるんだろう」と興味を抱き、小屋に近づくと、その瞬間、再び耳元で「俊…」と呼ぶ声が響いた。
今度は前方から、明確にその声が聞こえる。
「行こう、俊!帰ろう!」和也は不安を募らせながら引き戻そうとしたが、俊はその声に魅了されていた。
声は、彼をさらに小屋へと引き寄せた。
「おい、俊、戻ってきて!」和也は必死に叫んだが、俊はその声を無視し、小屋の中へ踏み込んだ。
薄暗い空間には、無数の昔のとんがり帽子をかぶった童たちが溢れていた。
その子たちは俊に向かい笑みを浮かべ、集まってきた。
「お前も仲間にならないか?私たちはここで、かつて生きていたころの思い出を語り続けているんだ。」
俊は初めて聞いたその言葉に疑念を抱く間もなく、魅了され、次第に彼らに心を奪われていった。
「忘れないで、ここにいて。」その声は優しく響いたが、彼の心に潜む恐れが、徐々に膨らんでいくのを感じた。
彼は、両親の顔や村の仲間を思い出し、急に怖くなった。
「私は…帰りたい!」俊は叫んだが、その声は無情にも小屋の中に消えてしまった。
周りの童たちは、まだ俊の手を握って離さない。
そして、その瞬間、俊は感じた。
彼らの目が、ただの子供たちのものではないことを。
長い間失われた記憶と、暗い恐怖が彼を包み込んでいた。
俊は夢の中に引きずり込まれ、彼の心は次第に朽ちていく記憶の中に沈んでいった。
一方、和也は小屋の外でじっと待っていた。
俊の様子が変わったことに気付くと、再び恐れを抱き、村へと急いで戻ることにした。
それ以来、俊の姿は村から消え、小屋も徐々に草に覆われていった。
人々は、彼を忘れないように語り継いでいくが、その恐れは村の隅々に広がることとなった。
果たしてあの森の向こう側には、どんな秘密が隠されているのか。
還ってこない俊の姿は、村の人々にとっていつまでも消えない恐怖として語り継がれていた。