「永楽寺の呪い」

深い森の奥にひっそりと佇む古い寺、その名を「永楽寺」という。
寺には、昔から語り継がれる呪いがあった。
それは、特定の生まれた日を持つ者がこの寺に足を踏み入れると、永遠にその場所から離れられないというものだった。
村人たちはこの呪いを恐れ、寺には近づかないようにしていた。

ある日、東京から訪れた青年、佐藤恵介は、友人に連れられてこの寺を見に行くことにした。
恵介は好奇心旺盛で、古い伝説に興味を持っていた。
友人たちは彼を止めようとしたが、彼は笑って「大丈夫だよ。こんな話、ただの迷信さ」と言い放った。

寺に着いた恵介は、その場の雰囲気に圧倒された。
静寂が広がり、どこか人の気配が薄い。
歴史を感じさせる本堂の中に足を踏み入れたとたん、彼の背中にひやりとした冷たい風が吹き抜けた。
暗いお堂の奥に、古ぼけた仏像が鎮座していた。
その瞬間、恵介は目の前に映る光景が変わるのを感じた。

「何か…変だ」と、彼は呟いた。
ふと、懐中時計の針が逆回転するのを目にした。
時が逆に流れ始めたのか?彼は恐怖に駆られ、その場から逃げ出そうとしたが、ドアはまるで固く閉ざされているかのように動かなかった。

「カ、カ、カ…」というかすかな声が聞こえた。
恵介は目を凝らして声の主を探したが、そこには誰もいなかった。
再びその声が響く。
「カ、カ、カ…」まるで、おどけた子供のような声だ。
彼の心臓は早鐘のように鼓動していた。

恵介は声のする方へと足を運んだ。
そして、黒いカーテンの奥から現れたのは、白い服を着た少女、名を「香織」という。
彼女は憂いを帯びた表情で恵介を見ていた。

「あなたも呪いにかかってしまうの?」香織は言った。
恵介は何とか状況を理解しようとしたが、混乱する頭の中に鳴り響くのは、カという音だけだった。

「私もここに来たとき、呪われてしまった。私は永遠にこの寺を離れられない。」香織の声は悲しみを含んでいた。
「そして、私の命が尽きることがなければ、他の者も巻き込む。私の呪いは、一人を選び、その者を永遠に縛り付けるから。」

恵介は恐怖に駆られたが、香織の瞳の奥には助けを求めるような光が宿っていると感じた。
「どうすれば、あなたの呪いを解くことができるのか?」彼は尋ねた。

「私がこの寺を離れられるためには、呪いをかけた存在にまた会わなければいけない。しかし、その者はずっと昔に命を落としてしまった。」香織は涙を流し、「だから私も…永遠にここに留まる運命なの。」彼女は呟いた。

恵介は何か策を講じようと考えた。
香織の力になりたいという思いが胸に湧く。
彼は「それなら、私がその者を見つけ出す。あなたを解放するために、全力を尽くすよ!」と宣言した。

しかし、香織は悲しげに微笑む。
「あなたにそんなことはできない。私の呪いは強大だから。それに…あなたが来たことで、あなたはもう逃れられない。」

その言葉に、恵介は凍りついた。
急に視界が暗くなり、彼の意識が遠のいていくのを感じた。
最後に、香織の声が耳に残った。
「私の未来の分身になって、ここに居続けてほしい。」

恵介の目が覚めると、彼はまた寺の中にいた。
香織の姿は消えていたが、彼の心に彼女の声が響き渡っていた。
「カ、カ、カ…」

永楽寺からはもう逃げられない。
彼は永遠にこの寺に残り、呪いの中で香織とともに生き続ける運命を背負うことになってしまった。
毎夜、彼は同じ声で呼びかけるのだった。
「カ、カ、カ…」と。

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