「語り場の影」

ある静かな地の村には、古くから言い伝えられている不気味な話があった。
名も知れぬ木々が生い茂る深い森の奥に、一つの廃屋がひっそりと佇んでいた。
村人たちはその廃屋を「語り場」と呼び、決して近寄らないようにしていた。
というのも、その廃屋には、過去に何人もの人々が吸い込まれ、戻ってこなかったという噂があったのだ。

若い男性、健太はこの話を聞いて、興味が湧いた。
彼は無邪気にその廃屋の話を面白おかしく語る友人たちに、「本当にそんなことがあるのか、自分の目で確かめてみたい」と言った。
仲間の秀樹と美咲は最初こそ冗談だと思っていたが、健太の真剣な表情を見て、興味を示し始めた。

「じゃあ、今日の夜、行ってみるか?」と秀樹が提案した。
美咲はその提案に乗り気ではなかったが、友人たちの楽しむ姿を見て、結局参加することにした。
始まりは、誰もがただの遊びだと軽く考えていた。

夜が訪れ、月明かりに照らされた廃屋へと向かう道すがら、彼らの間には緊張感が漂っていた。
しかし、彼らは互いに笑顔を交わしながら、勇気を奮い起こし、廃屋の前に立つことができた。
健太は古びたドアを開け、恐る恐る中に入ってみた。
廃屋は薄暗く、何も見えないように思えたが、彼らの好奇心はそれを乗り越える力を与えた。

中に入ると、壁には見知らぬ文字が書かれていた。
それは、過去にこの場所で何が起こったのかを示唆するような、不気味な文字だった。
「話す者は、帰らぬ。」その文言を目にした瞬間、彼らは背筋に冷たいものを感じた。
だが、健太はその恐怖を笑い飛ばし、ふざけて大声で叫んだ。
「誰かいるのか!語り場を開いてくれ!」

その瞬間、周囲が一瞬静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。
何かが変わることを悟った彼らは急に不安に襲われるが、後には引けなかった。
すると、壁がほんのりと光り始め、何かが語り始めた。
「お前たちが求めるのは、真実か、恐怖か?」

その声は空間の中から響き渡り、彼らの心の陰に潜んでいた恐怖を一気に引き出した。
美咲は「もうやめよう!」と言ったが、その声は無情に彼女の叫びをかき消した。
「一度口を開けば、お前たちの欲望は満たされない。」まるで生きているかのように思える声に、健太の心臓は速さを増し、彼は後ずさりした。

しかし、好奇心が勝ってしまった健太は再び声を張り上げた。
「私たちにその話をしてくれ、語り場の真実を!」その瞬間、空間が震え、彼らの目の前に黒い影が現れた。
影は彼らの知識や恐れをつんざくように、さらなる言葉を次々と語り続けた。
「お前たちの知らない真実が、ここには眠っている。だが、知りたい者は代償を払うのだ。」

その言葉に、一瞬恐怖に包まれたが、同時に興味も強く湧いてきた。
それでも、後悔の念が胸を圧迫する。
「私たちはもう逃げられないのではないか…」と秀樹が呟いた瞬間、影は彼に近づいた。
「お前の心の奥底にある罪を、解き放て。それが、生きる力となるだろう。」

影の言葉に翻弄され、彼らは自分たちの内面に潜む恐れと向き合うことになった。
しかし、次第にそれは恐怖ではなく、暴力へと変わっていった。
友人の姿が見え隠れし、彼の中の悪意と嫉妬が解き放たれる。
「お前たち、何が怖いのか教えてやる!」と健太が叫んだ。

廃屋の中は混乱し、彼らの心の闇が次第に暴れ出す。
その時、影は徐々に姿を現し、彼らを飲み込み始めた。
恐怖の先に待つのは、制御不能な暴力だった。
彼らは一瞬のうちにその場から消え、廃屋は再び静けさを取り戻した。

村人たちは新たな不気味な噂を耳にした。
「語り場に近づく者は、語られた者にされる。」誰もその廃屋に近寄ることはなく、ただ過去の話として語り継がれた。
語り場は、いつの間にか忘れ去られた場所となったが、闇の中では、また新たな話が始まっているかもしれない。

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