ある静かな村のはずれに、古びた篭があった。
その篭は、誰も近づかないような薄暗い場所にひっそりと置かれ、ただの持ち物のような存在になっていた。
しかし、村の人々にはその篭にまつわる奇妙な噂があった。
村の若者、翔太は噂を耳にし、興味を持った。
「篭には匂いがある、それを嗅いだ者は魂を奪われる」と言われていた。
彼はその話を信じなかったが、好奇心から篭を見に行くことを決めた。
夜になると、翔太は仲間の健二と美雪を誘って篭のもとに向かった。
月明かりが照らす中、彼らは篭に近づいた。
すると、彼の鼻腔にかすかな香りが漂ってきた。
その香りは甘美でありながら、どこか不気味なものだった。
「これが噂の匂いか…」翔太がつぶやくと、健二は不安そうな表情を浮かべた。
「悪いことが起こりそうだ」と言い、美雪も頷いた。
「やめておいた方がいいんじゃない?」
しかし翔太は、篭の奥に何かが眠っている気がした。
彼は篭に手を伸ばし、内側を覗き込んだ。
すると、篭の底に血のような赤い染みが広がっているのが見えた。
その瞬間、翔太は不安に襲われ、後ずさりした。
その時、篭から光が漏れ出し、彼らの目の前で不気味な影が現れた。
影の中に見えたのは、かつてこの地に住んでいたとされる村人の霊だった。
彼は悲しそうな眼差しをS翔太たちに向け、「私の命を奪った者よ、私がここにいる理由を知れ」と言った。
翔太は一瞬で理解した。
村には昔、篭を用いて人々を生贄に捧げる儀式が行われていたのだ。
その匂いは、その血が篭に染み込み、彼らの無念を伝えていたのだ。
翔太は、自分が立っている場所が、一生許されない罪の上にあることを知った。
その時、健二が「このままではいけない、逃げよう!」と叫んだが、美雪は篭から目を離そうとはしなかった。
彼女は呟いた。
「私たちも、何かを求めてここに来たのではないの?この匂いには、何かが感じられる…」
瞬間、翔太は彼女の言葉に驚いた。
彼らはこの篭の前で感じた匂いに引き寄せられ、最大の欲望に操られていたのかもしれない。
翔太は、美雪を引っ張って場から離れようとしたが、彼女はその場に立ち尽くしていた。
目の前の影が彼女に近づいていく。
「私を選んで。生きる力を与えてくれるのは、お前のような存在だ」と影は美雪に囁いた。
美雪は無表情なまま、篭の奥深くに一歩踏み出した。
「待って、美雪!」翔太は彼女を叫びながらつかもうとしたが、影の力に引き寄せられるように、彼女は消え去ってしまった。
篭が静まり返り、翔太と健二は恐怖に包まれた。
二人はその場を逃げ出したが、心の中には美雪の叫び声が響いていた。
その日以降、翔太は美雪のことを忘れられず、常に篭の匂いを思い出していた。
時が経っても、篭の噂は消えることはなく、村人たちはますますその近くへ寄り付かなくなった。
しかし、翔太は毎晩夢の中で美雪に呼ばれ続け、その篭から放たれた匂いが彼を苦しめ続けた。
結局、彼は村を去り、過去の影から逃れることに決めたのであるが、その心の中には、いつも篭と美雪の記憶が残り続けていた。