「望みの橋の幽」

ある秋の夜、静まり返った町の端に架かる老朽化した橋。
名前を「望みの橋」と呼ばれているその場所は、地元の人々にとって不気味な伝説が語り継がれていた。
昔、この橋で行われた一つの会が、悲劇を生んだという。
多くの人々が集まり、希望と願いを込めて集まったその場で、一人の女性が消えてしまったのだ。
その後、彼女はもう戻ることはなかった。
彼女の名前は幽。
以来、この橋では彼女が現れると言われ、その姿を見た者は悲しみを背負うことになると恐れられていた。

ある日、大学生の和也、朋子、そしてユウジは、肝試しがてらこの橋に足を運ぶことにした。
和也は自信満々に「大丈夫だよ、ただの噂だって」と言い放ったが、朋子は不安げに「本当に大丈夫なの?」と尋ねた。
しかし、ユウジは興味をそそられ、「行こうよ。話のネタにもなるし」と言い、三人は橋へと向かった。

夜風がひゅるりと橋を渡り、彼らの心に緊張をもたらす。
明るい街の灯りから少し離れたその場所は、時折不気味な静けさが漂い、彼らはまるで空気が重くなるのを感じていた。
辺りに人影はなく、幽のことを考えると、一層恐ろしい気配が肌にしみ込むようだった。

「ここで何か起こるとしたら、どんなことなんだろう」と和也が言うと、朋子は「幽のことを考えると、本当に怖くなる」とつぶやいた。
ユウジはそんな朋子を笑い飛ばし、「恐がるなら帰ったほうがいいんじゃない?」と茶化すように言った。

それでも、朋子はそこで無理やり笑顔を作り、「じゃあ、私が先に叫ぶから、勇気出してよね」と冗談を言い、橋の中央へと進んでいく。
その瞬間、空気が変わり、ほんのわずか冷たい風が彼らを包み込んだ。

その時、突如として彼女の声、幽の声が橋の上に響いた。
「どうしてあなたたちはここに来たの?」驚く三人は振り返り、そこには優雅に白い衣を纏った女性が立っていた。
まるで霧の中に佇んでいるようで、存在が際立っていた。

「本当にあなたは、幽なの?」和也が恐る恐る問いかける。
彼女は美しい顔を微笑ませながら、ゆっくりと頷いた。
「はい、私はここにいる。何か話したいことがあれば、いつでもどうぞ。」

朋子は恐れながらも、「私たち、ただ肝試しに来ただけなんです」と言った。
幽は優しく微笑み、「会いたかったのかもしれないね」と言った。
その言葉に三人は言葉を失い、思わず顔を見合わせた。

「私たち、あなたのことを知りたかったんです。何があったのか…」ユウジが言うと、幽は静かに話し始めた。

「昔、私はここで願いを込めた集まりに参加した。多くの人が希望を持ってやってきたけれど、急に混乱が起き、私は消えてしまった。それからはずっと、この橋の中にいる。私の望みは、私の話を誰かに伝えてもらうことだったから。」

その言葉に朋子は胸が締め付けられるような思いがして、「それなら、私たちに話してください」と言った。
幽は静かに頷き、「私を忘れないで」と言い残し、再びその姿をぼんやりと消していった。

彼女の言葉が三人の心に深く響き渡る。
和也は「何かすごい体験をしたね」と言ったが、その表情はどこか暗い。
朋子は、彼女が抱えていた苦しみや望みの重みを感じ、思わず目を潤ませる。

その夜、彼らはただの肝試しを超え、幽の願いを抱え込むこととなった。
今後、望みの橋を訪れる者に、幽の話を伝えることが彼らの新たな望みとなるのだった。
再び訪れる者たちへ、彼女の存在と願いを広めるために。
幽は橋の中で孤独なままでいることを強いられながら、どうか人々に自らの話を届けて欲しいと願っていたのかもしれない。

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