「迷いの町に潜む影」

ある静かな街のはずれに位置する「ざ」町は、数十年前に起きた悲劇によって人々の記憶から抹消されていた。
あの事件の影響で、町には近づくのをためらう人々が多かったが、時折好奇心に駆られた者がその噂の真偽を確かめるために訪れることがあった。
中でも、特に有名なのが「先」の名を持つ男子高校生、太一だった。

太一は自らの興味を優先し、町にまつわる話を調査することを決心した。
友人たちからは反対されたが、彼はその好奇心を抑えることができなかった。
ざ町で起きたという事件は、ある姉妹の失踪と、その姉妹の両親が何者かに恨まれる形で命を奪われたというものだった。
人々はその姉妹の霊が、周囲に奇怪な現象を引き起こしていると噂していた。

太一がざ町に足を踏み入れると、ひどく静まり返った空気が圧倒的に彼を包み込んだ。
数軒の家は朽ち果て、木々はうっそうと茂っていた。
心臓が高鳴り、彼は早々にその場を離れるべきか考えたが、過去の出来事に興味を持つ彼には、その決断はできなかった。

町の中心部に近づくと、ふと視界の隅に小さな女の子が見えた。
彼女は無邪気な笑みを浮かべ、まるで太一を待っているかのように立っていた。
驚いた太一は立ち止まり、その子に近づいた。
「君はここに住んでいるの?」と尋ねると、彼女はただ笑うだけだった。
背筋が寒くなるが、興味から目が離せなくなった太一は、彼女の誘導に従い、ついていくことにした。

彼女はざ町の外れにある、古びた小道へと導いていった。
小道の進む先に目を向けると、あったのは廃墟となった家だった。
その家は、失踪した姉妹の住んでいた家であると、太一は直感的に分かった。
彼女は嬉しそうにその家を指差し、自分の家だと示す。
ただ、その眼差しにはどこか哀しみが宿っているように感じた。

好奇心に駆られた太一は、その家に入ってみることにした。
しかし、家に足を踏み入れた瞬間、彼の全身は冷たい恐怖に包まれた。
目の前にあるのはりっぱな居間だったが、家具は埃をかぶり、窓から差し込む光は薄暗く、そこにいるはずの家族の気配は感じられなかった。

「姉さん、早くおいで!」

突然、女の子の声が耳元で囁く。
それは彼女の声ではなく、どこからか響いてくるようだった。
思わず振り返ると、同じ女の子が背後に立っていた。
彼女はさらに笑みを深め、今度は口を開いて「私の姉さんを探しているの」と言った。
太一は動揺しながらも、彼女に何かを感じ取った。

「彼女はどこにいるの?」と尋ねると、女の子はただ笑った。
それと同時に、家の家具がガタガタと揺れ始めた。
冷たい風が吹き抜け、太一は不安に駆られた。
漂ってくる不気味な空気に抗えず、彼は逃げ出そうとした。
しかし、彼の足はまるで重たいものに縛られているかのように動かず、変わり始めた彼女の表情が胸に重圧を与えてきた。

彼女が突然、目を細め、太一を真っ直ぐに見つめた。
「あなた、姉さんを見つけてくれたら、助けてあげる」と言い放つ。
この言葉には無邪気さは感じられず、不気味さが同時に胸を締め付けた。
自分の心の中で何かが錯綜し、彼は過去の記憶の中に迷い込んでしまったような感覚に襲われた。

何かに取り憑かれたように太一は彼女の手を取り、共に奥へ進むことを決めた。
暗闇の中、彼女の笑顔は一層恐ろしいものに見えた。
不安が増し、太一はついに彼女の正体に気づく。
彼女がいる理由、それは彼が探すという迷いの中、憎しみを抱えていた両親から生まれた自らの仇だったのだ。

「私を助けてくれたら、一緒に楽しいことをしよう」と言い笑う彼女だが、その背後には何か不吉な影が見え隠れしていた。
家から逃れようとする太一の耳元で、「もう後戻りできないよ」と冷たい声がささやかれた。
その瞬間、彼の心の奥で「迷い」の色が濃くなり、恐怖と絶望の道へと引き込まれていった。
にもかかわらず、彼は一歩を進めた。

その後、ざ町に迷い込んだ太一は、帰ることができないまま、彼女のもとで何度でも同じ笑みを繰り返すことになった。
彼の心にも恨みと迷いが染み渡り、彼は二度と光を見ないまま、彼女の影に取り込まれていったのだった。

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