春のある晩、動という名の若者が友人たちと共に、自宅の近くにある古びた神社に足を運んだ。
その神社には、昔から迷い込んだ人間を次々と呪い殺す「輪の神」と呼ばれる存在がいるという噂があった。
動はその噂を冗談半分に耳にし、特に気にもしていなかった。
しかし、彼の興味を惹くものがあった。
神社の境内には、小さな鳥居とともに、古くからある社がひっそりと佇んでいた。
そこには古びた鏡が置かれており、動はその鏡を一目見ようと近づいた。
鏡は汚れ、曇っていたが、彼はその不可思議な雰囲気に魅了され、思わず手を伸ばした。
友人たちがその様子を見守る中、動は笑いながら鏡を磨き始めた。
「触るなって言われてるのに、何してんだ」と友人の一人、健が声をかけた。
だが動は無視し、鏡が輝く瞬間を夢見て磨き続けた。
すると、その時、鏡の中に映った彼の姿とともに、もう一つの影が見えた。
それは彼と同じく青年で、どこか不気味な笑みを浮かべていた。
動は一瞬背筋が凍る思いがしたが、「ただの幻だ」と自分に言い聞かせた。
そしてもう一度磨こうとしたその時、今度は鏡が突然割れ、まるで何かがその場に満ち溢れたように感じた。
動は動揺し、友人たちも慌ててその場から離れようとした。
しかし、誰もが逃げることができなかった。
周囲は暗くなり、頭上には低い雲が覆いかぶさったように感じられた。
「何かが来る!」怯える友人の声が響くと同時に、鏡から現れた影が彼らの前に立ち塞がった。
動はその姿に目を奪われ、体が動かなくなった。
影は彼に向かってじわじわと迫り、「お前の命をいただく」と、かすれた声で囁いた。
動は恐怖で心臓が高鳴り、手が震えていた。
しかし、その瞬間、彼の中に強い直感が芽生えた。
「これは運命だ。逃げるのではなく、立ち向かわなければならない」と心の中で叫び、それに従うことにした。
彼は友人たちの手を引きながら、その場で影に向かって叫んだ。
「俺の命は奪えない! 俺はここにいる!」
その叫びが響くと、影は一瞬ひるんだ。
しかし次の瞬間、影はまた進み出し、動の目の前でぐるりと輪を形成し始めた。
その瞬間、動の体が強い力に引っ張られる感覚がした。
彼は必死に抵抗したが、輪に巻き込まれるように感じた。
「みんな、離れろ!」動は友人たちに叫び、彼らもようやくその恐怖に気づいて後ずさりした。
影はさらに強く迫り、周囲の温度が下がっていく。
一体何が起ころうとしているのか、動にはわからなかったが、彼は死を感じた。
そしてついに、影の声が響く。
「お前の命は私のものだ。」その言葉と同時に、影は彼の足元に絡みついた。
「動!」友人たちが泣き叫ぶ中、影が手を伸ばす。
絶望的な状況で動は自分の運命を受け入れ、運命の輪の一部として消えていく感覚がした。
その瞬間、神社の境内が静けさに包まれ、影はどこかへ消え去った。
動の存在が消え、「動の命は奪われた」と語る神社の風が吹き抜けた。
命が消えることは、次の命の誕生を意味する。
動の友人たちは、彼のことを忘れることはできなかったが、それと同時に彼の命が失われたことを知る者は、もう誰もいなかった。
しかし、時が経つに連れ、また誰かが神社を訪れ、この神社の噂を聞く時が来るだろう。
そして彼はまた、忘れられない命の一部として、永遠にその場所に留まり続けるのかもしれない。