「霧の中の禁忌」

夜の公園は静まり返り、月明かりが揺れる霧の中で不気味な影を作り出していた。
人々は次第に家へ戻り、人気のない場所での孤独が一層の恐怖を引き立てていた。
その時、ある者が公園を訪れた。
名を田中と言い、普段はその名に恥じない穏やかな性格で知られていたが、今宵は何かに誘われるようにこの霧の中に身を投じた。

田中は大学のサークル仲間と肝試しのためにここに来たが、友人たちは冗談交じりに言い合いながら次第に恐怖の夜を楽しもうとしていた。
しかし、彼の心の中には、どこか異様な雰囲気が漂っていることに気付いていた。
周囲を見渡せば、霧の中に動く何かが潜んでいるように思えた。
彼はそのことを気に留めず、友人たちの笑い声に耳を傾けようとしたが、次第にその笑いが人の声ではなく何か別のものであるかのように感じ始めた。

やがて、彼らは小道を進むことに決めた。
その小道は、あまりにも暗く、霧がさらに深く立ち込めていた。
田中はその歩みを軽く感じていたが、次第に視界が悪化し、先に進むたびに不安が募っていく。
何かが彼を見ている、そう感じた瞬間、彼の肩を軽い衝撃が走った。
「何だ?」振り返ると、そこには誰もいなかった。

その時、一人の友人が「この公園には破られた禁忌がある」と話しかけてきた。
彼はかつて見たことのない顔をしていた。
「この霧の中には、過去にこの公園を訪れた者たちの怒りが宿っている。誰かが何かを破ったのさ。」その言葉が田中の心をざわつかせ、彼は彼らの周囲に漂う霧の中に何かがいるような気がした。

突然、遠くから聞こえるかすかな囁き声に気付く。
「出て行け、ここから出て行け…」その声はあまりにも生々しく、田中の心を揺さぶった。
彼はその声に引き寄せられ、覚悟を決めて仲間たちを振り返った。
「ここにいたら危険だ、戻ろう。」しかし、友人たちは彼を無視して先に進もうとしていた。

その瞬間、霧が急に濃くなり視界が遮られた。
田中は焦りと恐怖で胸が締め付けられる。
霧の中から、異様な存在が現れた。
それは以前ここで亡くなった者たちの影で、彼が過去に知っていた顔が混じっていた。
その影はゆっくりと近づいてきて、田中は恐怖のあまり動けなくなった。

「お前たちがここに来るのは許されてはいない。」その声が耳元で響き、田中は思わず後ずさったが、霧はどんどん彼を囲み、絶望的な状況に陥った。
しかし陰はさらに近づき、彼に向かって手を伸ばしてきた。
彼は叫び声を上げたが、その声は空気に吸い込まれていく。

友人たちが田中の叫び声に反応しようとした瞬間、彼が見たものは何もない薄暗い公園だった。
仲間たちは彼を失ったと気付き、恐怖に駆られて逃げ出した。
しかし、田中は彼らの行く先を見つめたまま、霧の中に引き込まれていく。
心の奥で何かが壊れた音がした。
彼にはもう、戻る術がなかった。

やがて、霧の向こうに一筋の光が射し込んできた。
それは明るさの中で彼を待っているかのようだったが、彼はその光を受け入れることができなかった。
そして彼の視界は完全に霧の中へと消え、彼の存在もまた、過去の影となってしまった。
公園には再び静寂が訪れ、何も知らない者たちが今夜もその場所を訪れる。
彼らは決して知ることはない。
破られた禁忌が待ち受ける場所であることを。

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