ある静かな秋の夜、町外れの古びた神社の近くに住む犬、タロウは、いつもその神社の境内を遊び場にしていた。
タロウは真っ白な毛並みを持ち、町の子どもたちに愛される存在だった。
しかし、神社の神主が最近亡くなり、誰もその場所を訪れなくなってしまった。
タロウは寂しさを感じつつも、一人で神社の境内を走り回る日々を送っていた。
その日の夜も、タロウは神社で過ごしていた。
いつも通り元気に走り回っていると、突然空が不気味に暗くなり、雷鳴が轟き始めた。
タロウはその音に怯え、近くの木陰に身を隠した。
しかし、雷の光が神社の裏手にある小さな祠を照らした瞬間、タロウは動けなくなった。
祠の中から、不気味な青白い光が漏れていた。
その光はじっとしているタロウの目の前に現れ、彼を見つめているかのように感じられた。
タロウは恐怖で震えながらも、その光に引き寄せられるように歩み寄った。
すると、突然、光が強くなり、タロウの周囲を囲むように電流が走り始めた。
タロウはパニックになり、逃げようとしたが、身体が動かず、まるでその場に縛り付けられているかのようだった。
青白い光がタロウの身体を包み込み、彼は次第に意識を失っていった。
すると、彼の目の前に現れたのは、昔の神主の姿だった。
神主は穏やかな微笑みを浮かべ、「タロウ、私を助けてくれ。」と静かに語りかけてきた。
タロウは理解できない言葉を必死に理解しようとしたが、恐怖と戸惑いの中で何もできなかった。
それからタロウは神主が語る声を聞き続けた。
「私の力が失われてしまった。境内に封じ込められた私の霊を解放するには、真実の勇気を示す必要がある。」その言葉を聞いたタロウは、彼の心の中に勇気を持つ気持ちが芽生え始めた。
やがて、タロウは自ら動き出した。
恐怖を乗り越え、神主の言葉を思い出しながら、彼は祠の内部へと足を踏み入れた。
そこには、神主の霊が封じ込められたままの祭りの道具が散らばっていた。
電流の走る中、タロウはそれらを集め、一つ一つ慎重に神主の祠の中央に並べていった。
星の光が神社の境内を照らし始めた時、タロウは全ての道具を並べ終えた。
すると突然、青白い光が天井を突き抜けるように高く昇り、神主の姿がはっきりと浮かび上がった。
「ありがとう、タロウ。これで私は自由になれる。」神主はそう言い残し、タロウの目の前でまばゆい光と共に消えていった。
次第に、周囲の静けさが戻り、タロウはやっと安堵の息を吐くことができた。
恐怖に震えていた彼の心は、今や自分に満ちた勇気で満たされていた。
神社の中は元の穏やかな空間に戻り、タロウはその不思議な出来事を胸に刻み、日々の生活に戻るのだった。
しかし町の人々には、タロウがその神社で見た光景のことは誰にも話すことはなかった。
タロウはただ神社に再び訪れることがあっても、以前のようには心を安らげることはできず、それでも彼の心の中には、勇気と神主への感謝がいつまでも生き続けていたのである。