「望みの代償」

ある日、大学生の山田裕二は友人たちとハイキングに出かけることになった。
目的地は、彼らの知る人が誰も足を踏み入れない、迷いの森と呼ばれる場所だった。
その森には、昔から「望みを叶えるが、代償がある」と言われる伝説があった。
裕二は、好奇心と期待に胸を膨らませていたが、心の中には不安もあった。

森に到着すると、彼らは不気味に静まり返った木々の中を進んでいった。
途中、裕二の友人である佐藤は「ここで迷うと、二度と出られないと言われている。だから、十分にナビを確認しておこう」と忠告した。
裕二はその言葉を耳にして不安を覚えたが、すぐにそんな気持ちを振り払った。

森を進むにつれて、周囲はだんだんと薄暗くなり、視界が悪くなっていった。
裕二たちは数時間歩き続けていたが、道がわからなくなり、ついには迷ってしまった。
彼は携帯電話を取り出し、地図を確認しようとしたが、電波が入らず、何も見ることができなかった。

不安が募る中、裕二は思わず「私たち、どうなってしまうんだろう?」と口にした。
その言葉に友人たちは不安そうに顔を見合わせた。
すると、森の奥からかすかな声が聞こえてきた。
「ここにおいで。望みを叶えてあげる。」それは優しい女性の声だった。
しかし、どう聞いても、ただ者ではない響きがあった。

興味を引かれた裕二たちは、その声の方向へと進んでいく。
しばらく歩くと、古びた小屋が見えた。
小屋には、雰囲気のある女性が一人立っていた。
彼女は薄い笑みを浮かべており、「あなたたちの望みを、叶えてあげましょう」と言った。
裕二は戸惑いながらも、思わず自分の願望を口にした。
「大学の試験に合格したいです。」

すると、女性は微笑みながら「その望みを叶えてあげるけど、代償があることを理解しているの?」と問いかけた。
裕二は、その言葉が不安を引き起こす一方で、願いを叶えてもらえるかもしれないという希望も抱いたため、一瞬迷ったが、思わず頷いてしまった。

女性は手をかざし、静かに呪文を唱え始めた。
途端、裕二は頭の中に情報が溢れ込み、次第に意識が遠のいていった。
気がつくと、彼は小屋の外にいて、友人たちが自分の名前を呼んでいる声が聞こえた。
裕二は安堵したが、その瞬間、背後から冷たい風が吹きつけた。

周囲の様子を見渡すと、友人たちの顔が青ざめていることに気づいた。
彼は何が起きたのか理解できなかった。
「どうしたの? 無事だったの?」と裕二が尋ねると、佐藤が震えた声で言った。
「裕二、お前、今、何を言った? お前は…お前の名前が、誰の名前にも無いって…!」彼らの言葉が裕二の胸を締め付けた。

彼は急いで自分の携帯を確認したが、表示された名前はどれも彼にとって見覚えのないものだった。
周りを見渡しても、彼の友人たちの心の中にあるのは怯えと混乱だけだった。
「裕二…もう…お前がいなくなったんだ」と佐藤が呟く。
裕二の心は恐怖で満ち、その瞬間に彼は、彼の望みを叶えるために支払った代償が何であるのかを理解した。

その後、裕二は迷いの森に取り残されたような気分になった。
森の薄暗い影は、彼の心の中にしてきた望みの代償となって、彼自身を呑み込んでいく。
もう戻る道はない。
彼はいつまでも、心に抱く望みとともに、迷い続けることになるのだった。

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