ある晩、夜が深まり静けさが広がる道があった。
その道は古くから人々が恐れた場所で、「縛られた道」と呼ばれていた。
そこには、かつて悲劇的な死を遂げた女性の霊が現れるという噂があった。
その夜、佐藤健一は友人たちと肝試しに出かけることを決めた。
彼らは興味半分、怖さ半分の気持ちで長い道を進んでいった。
過去の噂を知っている健一は、心のどこかで警戒感を抱きつつも、友人たちの楽しむ姿を見て、自分も臆さずにいることに決めた。
道を進むうちに、できかけの朽ちた木と不気味な霧に包まれてきて、雰囲気はますます奇妙さを増していった。
友人たちが冗談を交わし合う中、健一はふと背後からの気配を感じた。
「疲れたら、すぐに引き返そう」という彼の警告を無視して、仲間たちは進み続けた。
しばらく進むと、突然、霧が立ち込め、視界が奪われた。
そのとき、友人の一人、田中誠がふと立ち止まった。
「何かいる…」と呟いた。
彼の目は驚きに満ちていた。
健一は彼の視線の先に目を向けた。
霧の中に、一瞬、白いドレスをまとった女性の姿が見えたのだ。
しかし、次の瞬間、霊は消えてしまった。
その後、誠は何かに引きずられるように後ろへ進んでいく。
「誠!」健一は彼を掴もうとしたが、誠は手の中で何かに縛られたかのように動かなくなってしまった。
健一は慌てて彼の元に駆け寄ろうとしたが、目の前に現れたその女性は、不気味な笑みを浮かべて立ち尽くしていた。
急に流れ込んでくる恐怖に襲われた健一は、友人たちを呼び寄せようとしたが、彼の声は霧の中で消えてしまっていた。
田中誠は、彼女の手に引かれるように後ろに進んでいく。
健一はその光景を目の当たりにし、決して背を向けられない恐れを感じた。
「誠!戻ってきて!」その一言が響くが、彼の目の前にいる女性の霊は、直視することすらできない雰囲気を醸し出していた。
やがて誠は消え去り、健一と残りの友人たちはその場に立ち尽くすしかなかった。
彼女が一体何を求めているのかも分からず、ただ恐怖に怯えているだけだった。
それからというもの、健一はその場所を避け、田中誠の行方不明事件が報道されるたびに、恐れが胸を締め付けた。
彼の心の中には、あの女性の冷たい視線が焼き付いていた。
そして、彼らがその道を歩く者に警告し続けることを決意したのだった。
「ここには近づかないでください。彼女に縛られてしまうから。」それが、彼らの最後の言葉になったのだ。
道は今もなお、静かに、そして異様な気配を漂わせながら、彼女を求める者を待ち続けている。