「高層ビルの呪縛」

高層ビルの最上階に位置するオフィス。
窓からは一望できる夜景が広がり、煌めく街の明かりが無限に広がっている。
だが、その景色とは裏腹に、廊下は静寂に包まれ、まるで時間が止まっているかのようだった。
そんなある日、佐藤は仕事の帰りが遅くなり、オフィスに一人取り残されてしまった。
彼の背後には、薄暗い廊下と不気味な空気が漂い、心がざわついていた。

急いで帰ろうと思ったが、エレベーターは故障しているのか、動かない。
一人で階段を下りるのは心許ない。
そこで佐藤は、「まぁ、少しだけルームチェンジしよう」と呟きながら、オフィスの奥の小さな休憩室に向かった。

休憩室は、薄暗い照明で照らされ、古びたソファやテーブルが散らばっていた。
佐藤は、少しでも安らぐためにコーヒーを淹れようとすると、その瞬間、彼の目の前に異様な影が現れた。
背の高い男の姿だったが、まるで実体を持たないかのように歪んで見えた。
その男はじっと彼を見つめ、低い声で「ここから出られない」と告げた。

佐藤は驚き、驚愕のまま立ち尽くす。
「何を言ってるんだ?」彼は懸命に尋ねたが、男は笑いながら近づいてきた。
彼の目に映るのは、周りの空気が歪む光景だった。

その男は続ける。
「呪われている。このビルには、決して出られない者たちがいる。」その言葉が、佐藤の心に重くのしかかった。
彼は周囲を見回し、息を呑む。
逃げなければならないという本能が働き、再び階段に戻ろうと決意した。
だが、男は彼に襲いかかるような視線を送り、道を塞いだ。

「逃げることはできない。君は独りだ。」男の声はますます迫ってきた。
その瞬間、佐藤は異様な感覚に襲われた。
所有物が奪われていく感覚、心臓の鼓動が高鳴り、時間が確実に彼を追い詰めていく。
彼は我に返り、逃げることを決めた。

息を切らしながら階段を下りると、周りの空気がもはや異次元のようで、異常にひんやりとしていた。
途中、振り返ることはできなかったが、背後から迫る気配は確かに感じられる。
彼は速く走り続け、ようやく1階に辿り着いたが、ビルの出口は何故か閉ざされていた。
慌ただしくドアを押しても、まるで壁に閉じ込められているかのように動かない。

混乱の中で目が合ったのは、エレベーター前に立つ無表情な受付の女性だった。
彼女もまたこのビルの”呪われた者”の一人なのか?言葉を交わす余裕もなく、佐藤は何度もドアを試みたが、引き裂かれるような声が聞こえ、「決して出られない、呪われている」と彼に警告を響かせた。

遂に佐藤は、心の奥に隠された恐怖と絶望と向き合うことになった。
彼は他の者にこのビルの異常を伝えようと決意し、残されたわずかな力でその場をかけた。
しかし、出口を求める彼の叫びは、ビルの高い壁に吸い込まれていった。

果たして彼は、自らの運命を呪ったのか。
それとも、決して逃れられない真実を受け入れることができなかったのか。
暗い時間が静かに流れる中、佐藤は、他の「独り」の者たちと共に、その名を知らぬ怪なる影に包まれ続けているのだった。

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