午後の授業が終わり、生徒たちは学び舎を後にしていた。
しかし、藤田の日向(ひなた)は一人、教室で残っていた。
彼女は数学の補習が必要だと感じていて、少しでも成績を上げたいと必死に問題集に取り組んでいた。
周りが静まり返る中、日向は筆を走らせる音だけが教室内に響いていた。
ふと、教室の後ろにある黒板の前に目を向けると、何かが視界に入った。
黒板には、まるで誰かが消した文字の痕跡のようなものが残っていた。
「計」と書かれたその文字は、何か特別な意味があるかのように日向の心を掴んだ。
彼女はその文字をじっと見つめた。
すると、ふと教室のドアが音もなく開き、誰かが入ってきた。
日向は少し驚いたが、それは同じクラスの田中亮(りょう)だった。
彼もまた、補習を受けるつもりで教室に残っていたのだ。
「何してるの?」と亮が声をかけると、日向は振り返り「数学のドリルをやってるの」と答えた。
亮はその様子を見て「一緒にやるか?」と提案した。
二人は黙々と計算に取り組み、ときおり会話を交わしながら時間を過ごしていった。
だが、数十分後、気がつくと教室は異様な静けさに包まれていた。
日向は再び黒板の方に目をやり、そこに書かれていた「計」の文字が、急に緊迫感をもって迫ってくるように感じた。
不気味なことに、そこに何かが封じ込められている、そんな気配を彼女は感じていた。
「ねえ、何か変じゃない?」日向は亮に問いかけた。
亮は首をかしげながら「確かに、教室が静まりすぎてるね。外も誰もいないし」と応じた。
二人は不安を感じ始め、周囲の状況を探るために教室を見回した。
すると、黒板の周りに薄暗い影が立ち込め、教室の空気が一層重くなった。
「ここ、何かいるのかも…」と日向はつぶやいた。
亮は少し怯えた様子で「まさか、そんなことないだろう」と言った。
しかし、彼の言葉にも不安が滲んでいた。
ふと、彼らは互いの視線を合わせ、その思いに共鳴するように、二人の心に恐れが生まれた。
突然、黒板の「計」の文字が煌めき、まるでそれ自体が生きているかのように動き出した。
日向は驚いて背後に下がり、亮も思わず教室の隅に逃げ込んだ。
黒板に触れた瞬間、二人は一瞬にしてその場から別の空間に引き込まれてしまった。
気がつくと、二人は真っ暗な場所に立っていた。
周囲には人の気配もなく、どこか不気味な空気が漂っている。
日向は恐怖で縮こまり、亮の手を握りしめた。
「私たち、どこにいるの?」日向は不安を口にした。
「封じ込められた場所に違いない。何かがここで待っているんだ」と亮が言った。
その瞬間、周囲から急に声が聞こえてきた。
「実に不思議だな、ここに来るとは」と、まるで影のような存在が現れた。
彼らは学校の伝説を思い出した。
この場所は、かつて何人もの生徒が消えた怨念が満ちているという噂があった。
この場所に来ると、計算問題に敗けた者はそのまま閉じ込められるという。
そして、その怨念は「実」を求め、何かを試す存在が待ち構えているのだった。
「私たち、逃げられないの?」日向は絶望的な声を上げた。
ですが、亮はしっかりと彼女の目を見つめ、「怖がらないで、二人で力を合わせれば大丈夫だ」と励ました。
彼らは心を一つにし、この恐ろしい試練を乗り越えるために、勇気を振り絞った。
日向は思い出した。
彼女が得意だった公式や、今まで学んできた全てを。
二人は協力して、怨念を解きほぐすために計算を始めた。
無我夢中で計算を繰り返し、霧が薄れていくのを感じた。
そうして、二人が「実」の力を合わせて強く叫ぶと、周囲の闇が晴れ、彼らは再び教室に戻ってきたのだった。
教室の明るさが戻り、日向は胸を撫で下ろした。
「私たち、やったよね」と亮に向かって笑いかけた。
しかしその時、二人の背後から黒板を叩く音がした。
「計」その文字は再び浮かび上がっていた。