ある夜、静まり返った橋の上で、私は友人のあかりと二人きりで歩いていた。
橋の下には水面が月の光を反射し、穏やかな風が吹き抜けていた。
その穏やかさに反して、私の心の中には暗い感情が渦巻いていた。
あかりはいつも私の目の前で輝いており、私にはない魅力や才能を持っているからだ。
彼女に対する嫉妬の感情が、いつしか心の奥深くで根を張っていた。
橋の中央に差し掛かると、あかりが立ち止まり、橋の下を見下ろした。
「ここから見る夜の景色は、ほんとに美しいね」と彼女は言った。
私は返事をすることもできず、ただ彼女の横顔を見つめていた。
彼女の笑顔は、私の心に嫉妬の刃を突き刺すようだった。
その時、ふと耳に入ってきたのは、何かが水の中を泳いでいるような音だった。
最初は小さな波のように聞こえたが、次第にその音は大きくなり、まるで水中から、何かが這い上がってくるような感覚を与えた。
「あかり、聞こえる？」私は恐れを感じながら言った。
彼女は無邪気に笑い、私を振り返った。
「何も聞こえないよ、魅零」
その瞬間、脳裏を掠めたのは、さまざまな風景が消え、ただ私はあかりの「嫉妬」に飲み込まれる幻影だった。
私は感じた、自分の内部にある闇が、彼女を引きずり下ろす準備をしていることを。
「あかり、橋の端に近づかないで」と、私は心の中の声と戦いながら懇願した。
しかし、彼女はその警告に気付かないまま、好奇心に満ちた目で周囲を見渡している。
そのとき、橋の下で轟音が響き、視界が開けた。
水面がざわめき、何かが浮かび上がってきた。
その姿は、薄暗い水の中で闇のように動く影だった。
その影は、まるで私を見上げるかのように、欲望を伴った瞳を持っているように感じられた。
私はその存在に恐怖を感じ、体が硬直した。
「魅零、どうしたの？怖いの？」あかりが私に問いかけてきた。
その瞬間、嫉妬によって生まれた影が私の心の奥を浸食し、恐怖に満ちた声が響いた。
「彼女を引きずり込め」その言葉が、私の中で反響し続ける。
私は背筋が凍りついたが、声はもう止まらなかった。
「あかり、近づいてはいけない！」
彼女が一歩踏み出す瞬間、目の前で冷たい風が巻き起こり、橋が微かに揺れた。
私は何とか彼女を引き留めようとしたが、嫉妬の影に押し流されそうになった。
「嫌だ、こんなことをするつもりじゃなかったのに」と心の中で叫びながらも、その影は私の内面をゆっくりと蝕んでいた。
次の瞬間、あかりが足を滑らせ、橋の端から落ちてしまった。
「魅零！」彼女の絶叫が耳に残り、私は動けずに立ち尽くしていた。
彼女は水に飲まれ、無力に消えていく。
嫉妬の影が私を包み込み、視界がぼやけてきた。
私が望んだのは、彼女の不幸なのか。
その後、私は橋から離れることができず、ただ冷たい風に吹かれながら立っていた。
夜は私を孤独な影で包み込んでいた。
あの日以来、私の心にはかつての親友の声が響いている。
「戻ってきて、魅零」。
それは、私自身の中の呪縛なのかもしれない。
今もなお、橋の上は静まり返っている。
私はただ、あかりを想い続ける。
彼女の笑顔と、自分の内面に巣食った嫉妬が交錯するその場所で。
