「飲み込まれた影」

深い森に囲まれた小さな村があった。
そこには、一年のほとんどで静まり返っている「場」と呼ばれる場所があった。
村人たちはこの場所に近づくことを避け、けして近寄らぬようにしていた。
その理由は、村の中に語り継がれる不気味な噂にあった。

ある日のこと、若い青年の健太は、村に住む友人たちと肝試しをしようと提案した。
友人たちは最初こそ戸惑ったが、健太の熱意に押される形で賛同した。
彼らは夜の闇に包まれた森を進み、とりわけ恐れられている「場」へと向かっていった。
森の中は、月明かりによって薄暗く照らされ、さまざまな影が揺らめく様子に、彼らの心は次第に高まっていった。

やがて、彼らは「場」に辿り着いた。
そこには、何もない広場が広がっていただけだった。
ただ、広場の中央には不思議な形をした線が描かれており、まるで誰かが何かを示すように、地面を引き裂くかのように存在していた。
健太たちはその線を見て、興味が湧いた。
なぜこんな所に、こんな特徴的な線があるのか、皆の目が見つめる中、健太は先にその中央に踏み込んでしまった。

その瞬間、何かが彼の目の前に現れた。
それは、恐ろしく歪んだ顔を持つ影だった。
影は健太を見上げ、「この場はお前のものではない」と、まるで彼を拒絶するかのように告げた。
彼の心は一瞬で冷や汗をかき、恐怖で固まった。
そのとき、友人たちは一斉に身を引いたが、健太はその影が何者なのかを知りたくて、逆にその影に近づいていった。

影は健太の動きに反応し、次第に形を変えていった。
その姿は、彼が想像する以上に恐ろしいものだった。
彼は反射的に後ずさりするが、影はゆっくりと彼に近づき、「私の実を見つけたことを後悔するだろう」とささやく。
それは、鋭い暴力的な言葉だった。

恐怖と興味が交錯しながら、健太はその影の言葉を無視して、周りの友人たちに助けを求めた。
しかし、友人たちはすでにその場から離れようとしていた。
彼は必死になって叫び続けたが、誰も彼の声を聞こうとしなかった。
彼は周囲の景色がどんどん暗くなり、孤独を感じ始めた。

影の姿は、次第に健太の眼前で膨れ上がり、まるで彼に何かを訴えかけるかのように動き始めた。
その瞬間、健太は自らが引き寄せた混沌とした状況を理解した。
「私の実」とは、影が過去に失った何かを指しているのかもしれない。
それは彼を逆にとらえ、彼の心を支配しようとしていた。

影はさらに近づき、健太の心深くに潜り込もうとしていた。
「この場で何かに取り込まれることになる」と警告されるような冷たい風が吹き抜け、彼はその影に引っ張られていく感覚を抱いていた。
彼は必死に逃れようとしたが、その力は強く、彼の思考は次第に飲み込まれていった。

残りの友人たちは、健太が影に取り込まれていく様子を見つめ、恐怖心から一目散にその場を立ち去る決断をした。
彼らは、自分たちも影に飲み込まれることを恐れ、頭を抱えながら逃げていった。

その後、村の中で健太を見た者はいなかった。
「場」は再び静まり返り、村人たちはそのことを忘れたかのように、日常を取り戻した。
彼の存在は、影と共に消え去ったのだった。
そして噂はこのように続いている。
「この場に近づく者は、恐ろしいものに飲み込まれる」と、生存する者たちが恐れ逃げて行く伝説として、村の中で語り継がれていくのであった。

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