ある静かな町に、裕子という名の若い嫁がいた。
裕子は愛する夫と共に平穏に暮らしていたが、家の近くにある古びた錆びた工場が、不気味な雰囲気を醸し出していた。
この工場は、かつて戦の時に軍需品を生産していたが、その後の廃業によって放置され、今や錆びた鉄が絡み合う不毛な遺跡となっていた。
ある夜、裕子は夫の帰りを待ちながら、ふと工場の方に目を向けた。
その瞬間、工場内部から揺らめく光が見えた。
興味を惹かれた裕子は、何が起こっているのか確かめるために工場へ向かうことにした。
近づくにつれて、光は次第に強さを増し、彼女の心に不安と興奮の念を呼び起こした。
工場の扉を開けると、中は異様な静けさに包まれていた。
暗がりの中、かすかに光る物体が目に入った。
それは、かつてこの工場で作られていた銃器の一つだった。
劣化した金属には錆が浮かび上がり、その中から静かな光が漏れ出している。
裕子は不思議に思った。
錆びついたものがどうして輝くのか。
すると、耳元で誰かの声が聞こえた。
「裕子…」
驚いた裕子は振り向いたが、誰もいなかった。
次第に声は彼女の心に響いてくる。
「私の念が、ここに残っているのだ」と。
その瞬間、裕子はこの工場で亡くなった兵士たちの思いが錆の中に宿っていることを理解した。
彼らの戦いの記憶や未練が、光となってこの場所を漂っているのだ。
裕子は次第にこの工場に引き寄せられるようになった。
毎晩、彼女は夫が帰った後に工場を訪れ、光の中に宿る兵士たちの話を聞いた。
この工場にいる彼らの戦のみが存在し、彼らは未だに自分たちが守るべきものを求めている様子だった。
裕子の心には、彼らの切実な念が渦巻いていた。
しかし、次第にその念は裕子に強い影響を及ぼすようになった。
彼女は夫のことがより愛おしく感じる一方で、工場に行かないと不安になってしまった。
夫も心配し、裕子に何が起こっているのか尋ねるが、彼女はそれを話すことができなかった。
彼女の心は、戦の華を持つ者たちに奪われていたからだった。
ある晩、裕子が工場を訪れたとき、いつもの光がいつもとは違う強さで輝いていた。
心の中で何かが呼び覚まされ、彼女はその光を手にすることができると感じた。
裕子はその瞬間、自分の手が光の中に引き寄せられていくのを感じた。
まるでその光が彼女の体に染み込んでいくかのようだった。
「裕子、助けて…永遠にここに留まるのか…」
その声は彼女の心の奥深くに届いた。
裕子はその叫びに呼応し、彼女は思わず工場の真ん中で手を合わせて祈り始めた。
「どうか、皆の未練を晴らして安らかに…」
すると、工場内に静寂が訪れ、光は一層強く輝き続けた。
裕子の涙が流れ、その瞬間、周囲の空気が一瞬にして暖かくなった。
そして、光は徐々に収束し、兵士たちの顔も見えなくなっていった。
彼らの思いが解放された瞬間、工場が静けさに包まれた。
裕子は工場を後にし、帰り道で夫の待つ家に向かうと、何かが心の中から解放された感覚を抱えながら歩いていた。
もう彼女は兵士たちの念に引き寄せられることはないだろうと信じていた。
彼女の心には、戦いの華の代わりに夫との穏やかな日々への愛が残っていた。
