山梨県の静かな村に住む高橋晴斗は、平凡な高校生活を送っていた。
友人たちと一緒に遊んだり、勉強したりする日々は、特に何も変わらない毎日だった。
しかし、最近村で噂されている「消える少女」の話が気になって仕方がなかった。
その噂によると、村の山奥にある廃屋には、非常に美しいが不気味な少女が住んでいるという。
彼女は村の人々の目に触れず、誰もが彼女の存在を知らないのだが、ある特定の場所に足を運んだ者だけに姿を現すという。
そして、彼女を見つけた者は二度と戻ってこれないのだという。
ある晩、晴斗は友人たちと一緒にその廃屋へ行くことにした。
彼らは興味本位で、その夜の限られた月光の中、全員でお化け屋敷のように廃屋に向かうことに決めた。
もちろん、誰もがこの噂を信じているわけではなかったが、好奇心に勝てずに行くことになったのだ。
廃屋にたどり着いた彼らは、まずその外観の不気味さに息を呑んだ。
ひび割れた壁、無造作に置かれた家具、そして静寂に包まれた空間。
彼らは一歩一歩慎重に中へ入り、声を潜めて話をした。
「本当にここにいるのだろうか?」と、友人の佐藤が言った。
「ただの神話だろう」と、田中が答えた。
晴斗はただ静かにドキドキしながらその場にいることしかできなかったが、心の奥底では何か特別なものを感じていた。
しかし、徐々に不安が募ってくる。
だんだんと空気が重たく感じられ、周囲の静けさに違和感を抱くようになった。
床が軋む音が響くたびに、彼らは互いに視線を交わした。
それでも、興奮と恐怖が交錯する中で、彼らは先へ進むことを選んだ。
そのとき、一つの小さな部屋に目が留まった。
薄暗く、廃屋の奥から微かに光が差し込んでいた。
部屋の中には、魔法にかけられたように綺麗な少女が立っていた。
彼女の目は澄んでいて、まるで何かを語りかけているかのようだった。
友人たちはその美しさに魅了され、すぐに彼女の周りに集まった。
「君たちもここに来たのね」と少女が微笑みながら言った。
その瞬間、晴斗はぞっとした。
少女の笑顔にはどこか冷たい影が宿っているように見えた。
「私に触れてみない?」少女が手を差し出すと、友人たちの心がすっかり彼女に支配されてしまった。
彼らは無意識にその手を取ろうとしたが、晴斗は何かが間違っていることに気づいた。
「待って、だめだよ!」晴斗は叫んだ。
しかしその声は届かず、友人たちの手が少女のもとへと伸びていく。
彼らが少女に触れた瞬間、一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間には彼らの姿が徐々に消えていった。
晴斗は恐怖で立ちすくんだ。
友人たちは愚かにも罠にはまってしまったのだ。
平気で見ているはずの少女の笑顔は、瞬時に冷たく、陰鬱に変わった。
「誰も私から逃げられない。この場所は永遠にあなたたちの心を捕らえる罠なのだから。」晴斗は恐怖に駆られ、逃げ出そうとしたが、足が動かない。
恐ろしさが彼を拘束していた。
だが、晴斗にはもう一つの選択肢があった。
彼は冷静さを取り戻し、心の中で呪文を唱えるように、友人たちの名を呼び続けた。
「佐藤、田中、帰ってきて!」少女の笑い声が響き渡り、彼の周りには暗闇が立ち込めた。
しかし、彼は諦めずに叫び続けた。
その瞬間、友人たちの記憶が断片的に蘇り、その声が彼に呼応するように聞こえた。
彼らの姿は消えたが、心の中に残る温もりを思い出し、晴斗は空間の中で光を見出す。
「これが私たちの友情だ」と、その思いを武器にした。
光が彼を包み込み、ついに晴斗は廃屋の外へと飛び出した。
振り返ると、美しい少女の姿が影の中に見えた。
しかし、彼は決して近づくことはなかった。
この村には、消えた者たちの思いが、永遠に少女の罠に囚われたままでいることを忘れないように、自らに誓った。