「囚われの声」

ある廃墟の村が、何もない静かな場所に点在していた。
村の中心には、かつて賑わいを見せていた小さな神社が佇んでいる。
その神社は長い間放置され、朽ち果てた木製の社殿が周囲の藪に飲み込まれていった。
近づく者は誰もいなくなり、そこはただの廃墟として忘れ去られた場所となっていた。

その村に住んでいた男子高校生、健二は、友人たちと肝試しに訪れることになった。
彼は自分の勇気を試す良い機会だと思い、仲間たちと共に廃神社へと足を運んだ。
神社に近づくにつれ、周囲はしんと静まり返り、まるで時間が止まったかのように感じられた。

「おい、ここの神社は音が聞こえるらしいぞ」と一人の友人が言った。
その言葉を聞いた健二は、興味を惹かれた。
「本当に? どんな音がするんだ?」

「知らないけど、なんかさ、誰かが叫ぶような声らしいよ。まるで助けを求めてるみたいに聞こえるって」。
友人は不気味そうにしていたが、健二はその挑戦を乗り越えたいと思い、皆を促して神社の中へと入り込むことにした。

真っ暗な社殿に一歩踏み入れると、冷たい空気が身体を包む。
懐中電灯の光が壁に映し出されるその瞬間、彼は耳にした。
かすかな囁き声、まるで遠くから誰かが呼んでいるようだった。
「助けて……」その声は、まるで弱弱しく、かつ痛切な響きを持っていた。

「これ、聞こえる?」健二が言うと、友人たちは顔を見合わせ、顔色を変えた。

「やっぱり、ここには何かいるんじゃないのか?」一人が恐る恐る言った。
その言葉に若干緊張が走り、健二も不安を覚え始める。
声がさらに近づいてくる。
「ここにいて……助けて……」その声は、まるで助けを求めながら囁いているようだった。

健二は心の中で葛藤した。
「こんな声を無視していいのだろうか?」彼はその声に魅了され、もう少し近づこうと思った。
しかし、友人たちは恐怖に耐えきれず、恐れを抱えて外に出ることを決めた。
「こんなのは無理だ、俺はもう行く!」と言い残し、次々に社殿から逃げ出していく。

その様子を見ながら健二は、声の正体を知りたい気持ちが募っていった。
勇気を奮い立たせ、彼は神社の奥へと進んでいく。
「誰か……いるのか?」と声を掛けると、再びその声が返ってきた。
「助けて、私を忘れないで……」

その瞬間、彼は声の方向に視線を向けた。
薄暗い中、何かが彼に近づいてくる。
白い影が浮かび上がっては消える。
その姿は似たような学生服を着た少女だった。
彼女は苦しんでいるようで、目は虚ろであった。
健二は心が揺れた。
「あなたは誰なんだ?」

彼女は少しずつ近づきながら呟いた。
「私はここに囚われている……助けて、私を外に出して……」

その瞬間、音が響いた。
まるで何かが崩れ落ちるように、社殿全体が揺れ動いた。
彼は一瞬、恐怖で動けなくなった。
健二は瞬時に理解した。
この声と影は、決して解放されることのない存在なのだと。
彼女を助けようとしてかえって危険な目に遭うかもしれない。
だが、彼女の訴えに心が痛んだ。

「私は忘れない! あなたを助けるから!」と叫んだ途端、彼女の顔がゆっくりと笑みを浮かべた。
しかし、それが彼にとって最後の言葉になった。
社殿が崩れ落ち始めると同時に、彼女の影は彼に向かって伸びてきた。
「あなたも私と一緒にいて……」と囁く声がこだまする。

次の瞬間、真っ暗闇に飲み込まれ、気がつくと健二はあたりを見回していた。
彼の周りには、かつての自分と同じように神社を訪れた人々がいた。
しかし、彼らの姿もそして声も消え去ってしまっていた。
健二は廃墟の中で、ずっとあの少女と一緒に過ごす運命を受け入れるしかなかった。
音は静まることなく、彼を呼び続ける。

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