静かな夜、佐藤家はいつもと変わらぬ日常を送っていた。
しかし、その日を境に、家族の生活は一変した。
長男の良太は大学への通学途中、友人からかつて噂になった「止まる家」の話を聞いた。
その家は、ある特定の条件が揃ったときに、突然時間が止まるというのだ。
好奇心旺盛な良太は、その噂に興味を持ってしまった。
良太は帰宅すると、家族にその話をした。
「みんなで行ってみようよ、きっと面白い体験ができる!」と彼は提案したが、母の美咲は「そんな恐ろしいところ、行く必要ないわ」と口をはさむ。
父の健太も「気をつけろ、そんな話は信じるに足らん」と言い放ったが、良太の心にはその疑念が根付いてしまった。
良太はその日の夢にその家が現れる。
この夢の中で、彼は家の中に入る。
薄暗く、埃に覆われた部屋は古びた家具に囲まれ、まるで時間が止まったかのようだった。
彼は何か大切なものがあると信じて、その部屋を探し始める。
だが、その瞬間、部屋の時計が突然、止まった。
目が覚めると、良太は興奮を隠しきれない。
「実際に見に行こう!」と彼は急いで家族を説得し、翌日、噂の家へ向かった。
家へ近づくにつれ、周囲の空気が異様に重苦しく感じられたが、良太は気にせず中へ入った。
彼の心は探検への期待でいっぱいだった。
家の中は予想以上に陰鬱な雰囲気を纏っていた。
各部屋は折り重なるようにして、不気味な静寂が支配していた。
良太は家族に「大丈夫、すぐに出るから」と言いながら、部屋を進んでいった。
古い絵画や家具に不審がる母や妹の絵里は、静かに手を握りしめていた。
その時、突然、どこかから子供の笑い声が響いた。
「おい、あそこを見て!」良太が声を上げると、兄妹たちはその方向を見つめる。
揺れる影が窓の外から覗いているようだった。
良太はその影に引かれるように近づいていくが、その瞬間、周囲の空気がぴたりと止まった。
家の中の時計が全て止まり、壁の絵も、その瞬間だけ動きを失う。
良太は恐怖のあまり後ずさりしたが、全てが静止した空間で、誰かの視線を感じた。
彼は後ろを振り向くと、そこには見知らぬ子供たちが立っていた。
青白い肌、虚ろな瞳を持つ彼らは、無表情でこちらを見つめている。
「助けて…」微かに声が聞こえた。
しかし、その声は耳元から響くのではなく、心の奥底からの響きだった。
良太は思わず「何をしているんだ!」と叫び逃げようとしたが、体が動かない。
彼は恐怖に駆られ、家族を呼ぶが、声が出ない。
時が止まったこの家で、彼は孤立してしまったのだ。
ついに、良太は心の中で彼らの恐怖を理解する。
彼らはこの家に縛られ、永久にここから出られない存在なのだ。
彼にできることは、一緒にここで止まることか、自らを犠牲にすることだと気付く。
彼は決して家族に迷惑をかけたくないと、緊急に考えるが、動くことができない。
その時、周囲が何かに吸い寄せられるように動き出した。
家族が逃げる声が聞こえ、別の空間へと流れ込んでいく。
しかし、良太だけはその運命から取り残されていた。
彼は一人で永遠に彷徨い続けるしかないのか、ただ立ち尽くし、青白い子供たちの中で彼もまた、動けない影として生きていく。
「もう一度、助けて…」その子供たちの声が心の耳に響く中、良太は彼らと一緒に永遠に止まった家に囚われた。
彼の家族は逃げ去り、そんなことは何も知らないまま、彼はこれが運命なのかと、時の止まった世界に沈んでいった。