廃れた村の中心には、一軒の古びた蔵があった。
その蔵は、かつては村の人々が集まり、楽しい時を過ごしていた場所だった。
しかし、今や蔵はひび割れた壁と朽ちた屋根で覆われ、数十年の時が流れた今、村は荒れ果てていた。
人々は誰もこの場所に近づかず、ただ風が吹き抜けるだけの静寂が続いていた。
ある日の午後、青年の田中健二は、廃村の噂を耳にし、好奇心から足を運んだ。
彼は友人たちと共に、心霊スポットとして名高いその村を訪れたのだ。
彼の心には、恐怖よりも興味の方が勝っていた。
日が高く昇る中、彼らは村の中心にある蔵に向かって進んでいった。
蔵の中に入ると、埃をかぶった物置が広がっていた。
無数の道具が雑然と置かれ、そのどれもが長い間使われていないことを物語っていた。
健二は、薄暗い中でも好奇心を抑えきれず、あちらこちらと物色した。
友人の佐藤美咲と山田太一も付いてきていたが、彼らは次第に不安を感じていた。
「何か変な気配を感じる。」美咲が声を震わせながら言った。
健二は無視するように、一つの箱に目を奪われた。
その箱を開けると、中には古いお札が入っていた。
お札は薄汚れ、文字がかすれて読めなかったが、健二はただの古い物だろうと思い込み、袋に入れてしまった。
その瞬間、何かが変わった。
蔵の中の空気が一瞬重くなり、背筋が凍るような感覚が健二に襲いかかった。
「大丈夫だって。何も起こらないよ。」彼は自分に言い聞かせるが、友人たちの表情は明らかに不安を浮かべていた。
特に太一は冷汗をかきながら、周囲を見回していた。
「戻ろう。」太一が言ったが、健二はその考えを否定した。
彼は興奮していた。
「もう少しだけ、探索しようよ。」しかし、友人たちは健二を止めようとした。
彼らの声が次第に小さくなり、やがて誰も口を開かなくなった。
外に目をやると、日が沈み始め、薄暗さが蔵に忍び寄ってきた。
その時、健二の背後からかすかな声が聞こえた。
「来ないで…。」振り返ると、誰もいなかった。
しかし、彼は明確に何かに背後から呼ばれた気がした。
その声は、どこか切なさを含んでいた。
「出よう!早く!」美咲が叫び、太一は急いで出口に向かおうとした。
しかし、健二は動けなかった。
心の奥で何かが彼を引き留めていた。
お札を手に持ちながら彼は、無意識にその言葉に従おうとしていたのだ。
「逸れないで…。」と再び声が響いた。
今度は、かすかな影が視界の片隅に見えた。
そこには、人間の形をした何かが立っていた。
ただ、その顔は見覚えのないいびつなもので、目が無く、ただ口だけが異様に大きく開いていた。
そして、彼女はその口をかすかに動かし続けている。
次の瞬間、健二の心に恐怖が押し寄せた。
彼は手にしたお札を投げ捨て、廃蔵の出口に向かって猛ダッシュした。
美咲と太一も必死でその後を追ったが、出口はまるで遠ざかっていくように感じられた。
家族の霊があふれ、健二は彼女たちの助けを求めたが、誰も彼を助けようとはしなかった。
彼は逃げ続け、ついに出口を見つけた。
外に出ると、暗い村が彼を見下ろしていた。
「健二!早く!」友人たちの叫び声が響く。
「何が見えたんだ?」彼は答えられなかった。
彼の心にはただ恐怖が満ちていた。
彼は振り返らず、村を離れた。
その後、健二は心に深い傷を抱えたまま、日常生活に戻ることはできなかった。
時折、彼の夢の中には、あの不気味な影が現れ、彼を呼び続けるのだった。
日が沈むと、彼は思わずその声を思い出した。
影は決して彼を忘れることはなく、彼を陰から見つめ続けていた。