「霧の中の友情」

彼女の名は陽子。
陽子は友人の美奈と共に、ルというそう遠くはない村にある古びた神社に訪れることにした。
噂によると、その神社は「友達を選ぶ神社」と呼ばれており、訪れた者には自分の本当の友人が誰かを知ることができるということで、近年多くの人々に人気を博していた。

「本当に友達を選べるのかな?」美奈は半信半疑で言った。
陽子は「実は少し怖い気もするけど、行ってみようよ」と答え、彼女の手を引いて神社に向かった。

その神社に着くと、静かな空気が漂い、周囲は幽玄な雰囲気で包まれていた。
古びた鳥居をくぐると、うっすらとした霧が立ち込めている。
「この霧、神社の伝説と関係あるのかも…」陽子はつぶやいた。

神社の主祭神は、かつて仲の良かった友人を失った神で、彼はその悲しみから「友の印」を持つ者に、真の友人を見極めさせる力を与えると言われていた。
彼女たちは神社の中央にある大きな石に近づき、手を合わせた。

すると、周囲の霧が急に濃くなり、視界が白く覆われていく。
陽子は少し怖くなり、「美奈、大丈夫?」と聞いたが、美奈は目を合わせることができなかった。
彼女は何かに引き寄せられるように感じていた。

ぽとりと、一粒の涙が頬を伝った。
それは陽子自身のものではなく、隣にいる美奈の涙だ。
美奈は自分の気持ちを吐露した。
「実は、友達を選ぶ神社なんて嘘だと思っていた。けれど、今、あなたが隣にいることで私の心が落ち着いて…」陽子はその言葉を聞いて、彼女の思いに共鳴した。

その瞬間、霧の中に、彼女たちが傷つけあった過去の記憶が浮かび上がってきた。
お互いの誤解、喧嘩、そしてすれ違い。
過去の嫌な思い出が強烈な迫力で迫ってくる。
「私たちは、友達でありながら、どうしてこんなに傷つけ合ってしまったの…」と、陽子の心の中に疑問が広がった。

霧はさらに深く、無数の影が彼女たちの周りを飛び交う。
それは彼女たちがこれまでに出会った友人たちの姿を映し出していた。
「あなたたちの中に、本当に必要な友はいないのか?」と、どこからともなく声が聞こえてきた。

その言葉に陽子はハッとした。
美奈との間に生まれた亀裂が、実はその友人たちとの関係にも影響を及ぼしていたのではないかという気がした。
互いの信頼が揺らぎ、心の距離が広がっていたのだ。

陽子と美奈は恐怖と不安の中で、互いの眼を見つめた。
「ごめんね、私もずっと誤解していた。あなたのことを信じなくなっていた」と陽子が口にすると、美奈の表情が柔らかくなった。
「私も、あなたを大切に思っています。本当は、ずっと一緒にいたかった」

その瞬間、霧が和らぎ、温かい光が彼女たちを包み込んだ。
それは神の意志が彼女たちを理解し、和解させるためのものだった。
陽子と美奈は手を取り合い、笑顔でお互いに頷いた。

神社を後にする時、彼女たちの心には分かり合える友情が宿っていた。
「友の印を選ぶ必要なんて、もともと私たちにはあったんだよね」と陽子が言った。
「そうだね、これからもずっと友達だよ」と美奈が返す。

彼女たちは新たな一歩を踏み出した。
恐怖の中で忘れていた大切な思いを思い出し、真の友の証を胸に刻んだのだった。

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