静かな深夜、北海道の小さな村の外れにある「霧の山」と呼ばれる場所がある。
過去には美しい風景が広がっていたが、今や霧に包まれてその姿を隠している。
村人たちは、あまり近づかない方が良いと子供たちに教え込み、次第にその山は忘れられていった。
ある晩、大学生の佐藤翔太、田中美咲、そして鈴木剛の三人は、肝試しをするためにこの霧の山に足を運んだ。
彼らは好奇心旺盛で、村の伝説に興味を惹かれていた。
「どうせ大したことないって」と翔太が笑うと、他の二人も頷いた。
月明かりの中、彼らは意気揚々と山へと進んでいく。
霧の中に入ると、急に静けさが訪れた。
周囲の音が消え、まるで世界が二人だけのために隔離されたかのように感じられる。
「ほんとに不気味だな」と美咲がつぶやく。
「大丈夫、何も起こらないさ」と剛が返す。
霧はますます濃くなり、前方が見えづらくなってきた。
歩を進めると、そこには古びた札が立てられていた。
「ここには争いの印あり」と、読み取った瞬間、美咲は思わず顔をしかめた。
「争いの印…?何のことだろう?」彼女は不安を抱えたまま、札を指差した。
翔太は「気にするな、ただの風習だろ」とあしらったが、彼の心にも嫌な予感が漂っていた。
しばらくすると、彼らは互いの気持ちが分かりづらくなっていた。
何かがカチッと耳を打つように、みんなの表情が曇っていく。
翔太が「ちょっと待って、先に進むのやめよう」と言い出した瞬間、まるで周囲の霧が意思を持って迫ってくるかのように、三人を包んだ。
視界が真っ白になり、どこにいるのかもわからない。
突然、霧の中から声が聞こえた。
「あなたたちの争いを見届けよう」瞬間的に、霧の中から人々の影が浮かび上がる。
かつての村人たちのような姿で、彼らは恐ろしい形相で翔太たちを見つめていた。
「計り知れない恨みを抱える者たちが、ここにいるのだ」と霧の声が響く。
翔太は恐怖で動けなくなった。
美咲の顔は驚愕と恐怖で引きつり、剛は叫びたくなる気持ちを抑えていた。
かつて、この山で彼らが争った者たちの恨みが、今この悪夢となって目の前に現れたのだ。
霧の中で、村人たちの中に争いの印を持つ者が現れ、彼らは互いに引き裂かれた過去を語りだした。
「私たちは忘れられた者。争うことを止められなかった…」その言葉に、翔太たちは急に彼らの気持ちが痛いほど理解できるような気がした。
「あなたたちの間にも、同じ争いが潜んでいるのではないか?」その問いかけに、美咲と剛は目を合わせた。
彼らの間にも、些細なことからの亀裂はあった。
しかし、彼らはそれを意識しないようにしていた。
しかし今、この山での出来事が、彼らの関係にも亀裂を広げていた。
「この山に触れると、争いの印が再生される。私たちの憎しみを一緒に背負って生きることになる」と霧の声が響く。
翔太たちは口を閉ざし、何も言えなかった。
彼らの心の中に、すでに争いの種が侵入していた。
暗闇が深まる中、霧が徐々に晴れていくと、彼らは気づいた。
誰ひとり、霧の印を持っているわけではない。
しかし、争いを避けることができないのかもしれないという暗い予感が心に残った。
互いに無言のまま、彼らは霧の山から逃げるように戻っていった。
村に戻った彼らは、いつも通りの表情を装ったが、その心の奥底には、今まで気付かなかった争いの印が生き続けていることを知っていた。