古い村の外れには、一際大きな木が立っていた。
その木の名は「神の木」と呼ばれ、村人たちにとって神聖な存在とされていた。
木の周囲は常に神秘的な光に包まれ、葉のさざめきが祈りの声のように聞こえるため、村人たちはこの木に感謝の気持ちを込めて数多くの供物を捧げてきた。
しかし、村人たちの信仰を背景に、この木には裏の顔があったことを知る者はいなかった。
神の木は人々の願いを叶える一方で、彼らの心に潜む暗い欲望を吸い込んでいたのだ。
やがて、叶えられた願いの数だけ、不幸が村に訪れることとなった。
ある日、青年の健太は神の木の前で、思いも寄らぬ願いを願った。
「俺も村を繁栄させる偉大な存在になりたい。」木はしばらく黙っていたが、やがて彼の願いを受け入れるかのように、神秘的な光を放った。
しかし、それは一瞬のことだった。
健太の心の中に潜んでいた過信と嫉妬の感情が、その光と共に木に吸い取られた。
その日から村には変化が起きた。
健太は急速に成功を収め、村のリーダーとして君臨するようになった。
しかし、彼の周りには不安が広がった。
彼を支えていた仲間たちは次々と不幸に見舞われ、リアルな幻想のように、事故や病気、さらには行方不明になる者さえ現れた。
村人たちは恐れて、神の木を忌避し始めた。
そして数ヶ月後、健太は神の木の前で不気味な夢を見た。
夢の中で、木は彼の声で呼びかけてきた。
「健太、その願いは代償を伴う。裏に潜む真実を知っているか?」目が覚めた彼は、夢の内容を思い出し、ただ恐れを抱くだけだった。
自分の栄誉を築いたのは、果たして自分の力なのか、それとも神の木の力によるものなのか。
そんな疑念は次第に彼の心を蝕んでいった。
ある晩、意を決して健太は木の前に再び立ち尽くした。
「教えてくれ。俺は何を代償としているのか。」
その瞬間、木から放たれた光はいつものように神秘的だったが、今度は彼の心に潜む恐れを映し出した。
心の内にある欲望や嫉妬、それに伴う痛みが、一つ一つ木に浸み込んでいく様が見えた。
健太は震え上がった。
彼は自らの願いの裏側に、触れたくない真実があったのだ。
その夜、村の人々が神の木に集まった。
誰もが心のどこかで木の持つ恐ろしさ、そしてその裏に潜む真実を感じていた。
健太もまた、彼らと同じように不安を抱えつつも、無理に微笑んでいる自分がいた。
すると、木からダークな波動が立ち上がり、神秘的な光の代わりに、不吉な影が彼らを包み込んだ。
その瞬間、健太の心を蝕んでいた恐怖が、現実となって彼を飲み込もうとしていた。
彼は心の奥底に至る光を求める声を聞いた。
「裏に潜む真実を受け入れ、真の光を見出すことができるか。」健太は心の底から叫んだ。
「俺はもう、自分の欲望から解放されたい!」
その叫びが木に届いた瞬間、木は大きく揺れ、圧倒的な光を放った。
健太は目を覆いたくなったが、目を開けると木はその姿を消し、ただの大木に戻っていた。
村人たちの目にも、あの神秘的な光は映らなかった。
村は奇妙な穏やかさを取り戻したが、健太は心の奥に何かが消え去ったようで寂しさを感じていた。
結局、神の木はその表と裏を持っていて、彼はどちらにも縛られない存在になったのかもしれなかった。
彼は自らの欲望を超え、光を求め続ける選択をしたのだった。