友梨は、かつて賑やかだった古い駅舎を再訪した。
廃墟となったその場所は、彼女の子供時代の思い出が詰まっていると同時に、忘れられた妬みの記憶が静かに息づいている。
駅舎は徐々に崩れかけ、風が吹き抜けるたびに不気味な音を立てた。
友梨は、その音に恐れを感じながらも、心のどこかで懐かしさを覚えていた。
彼女は幼い頃、友人たちとこの駅で遊び、笑い合った日々を思い出していた。
しかし、その楽しい思い出の裏にはいつも嫉妬心が潜んでいた。
友梨には、菜々子という親友がいた。
菜々子は美人で、明るい性格の持ち主で、みんなから好かれる存在だった。
友梨は彼女と一緒にいることが幸せだったが、同時に彼女の存在が自分を暗くしていると感じていた。
友梨は、自分が菜々子と同じように愛されることができないことに苛立ちを覚え、徐々に心の中に妬みを抱えるようになった。
その日、友梨は駅舎の中に入った。
埃にまみれた床やひび割れた壁は、まるで時が止まったようだった。
彼女は奥に進むにつれて、手がかりを探し続けた。
ふと、友梨は一枚の薄暗い写真が古い掲示板に貼られているのを見つけた。
それは彼女自身と菜々子が一緒に写った笑顔の写真だった。
しかし、友梨がその写真をじっと見つめると、菜々子の周りから黒い影が漏れ出しているかのように見えた。
友梨の心はざわついた。
心の中の嫉妬が増幅されるにつれ、友梨は不安と恐れを感じた。
その瞬間、駅舎の中に激しい風が吹き荒れ、扉が勝手に閉まった。
恐怖に駆られた友梨は、出口を探すが、どこもかしこも開かない。
その時、背後から声が聞こえた。
「友梨、ここにいるの?」それは菜々子の声だった。
友梨は振り返るが、誰もいなかった。
「お前は私を妬んでいたんだよね?」再び声がした。
今回はもっと不気味に響いた。
友梨は恐怖に押しつぶされそうになりながら、「妬んでなんかいない!」と叫んだ。
しかし、その言葉は彼女の心の奥深くに潜む真実を隠すことができなかった。
友梨は、かつての思い出の場所が、彼女の心の嫉妬心を反映していることに気づいた。
駅舎の奥から現れたのは、かつての菜々子の姿だった。
しかし、その目は冷たく、表情はひどく distorted されていた。
彼女の手には、友梨が抱いていた嫉妬の念が形を成した黒い渦が宿っていた。
「友梨、私を忘れたの? この妬みをどうするつもり?」菜々子の姿が徐々に近づいてきた。
友梨はその目を見つめることができず、必死に後ずさった。
駅舎の壁に背中が当たり、逃げ場を失った。
友梨の脳裏に、彼女が本当に菜々子を妬んでいたことを思い出させる記憶がよみがえった。
喜びの裏にあった苦しみ、愛されない自分、友人の成功。
「私が、妬みを抱えていたから…」彼女はその瞬間、その感情から逃げることはできないと悟った。
「もう私を解放して…」友梨は心から求めた。
しかし、菜々子の姿は微笑むことはなく、黒い渦が彼女に迫ってきた。
妬みは彼女を飲み込む準備をしていた。
「さあ、私の代わりにこの街を守って。あなたは私の妬みを受け入れることで、私の手を握ることができる!」
友梨は恐怖の中で叫んだ。
「いいえ、私は妬みを背負いたくなんかない!」だが、その言葉はどこか力を失っていた。
心の奥深くで、妬みが彼女を取り込みつつあった。
駅舎の中で、過去の思いが渦巻き、一瞬のうちに彼女はその場から消えてしまった。
友梨が姿を消した後も、駅舎は静まり返っていた。
廃墟の空気には、彼女の往年の笑顔の影と、潰れた妬みの影が共存していた。
彼女の存在は、今後、この駅舎で彷徨うことになるだろう。
人々が駅に足を運ぶたびに、友梨の声が微かに響いてくる。
「私を忘れないで……」