「夢幻の園と滴る誓い」

彼女の名前は幽美。
静かな村の外れにある美しい庭園、通称「夢幻の園」で育った。
幽美はここで両親と穏やかな日々を過ごしていたが、ある日突然、運命が一変した。
彼女の両親が失踪し、家にはただひとり残された。

失踪から半年後、幽美はあの日の記憶を呼び起こす。
あの夜、月が満ち、冷たい風が吹き抜ける中、両親は「約束を守る」とだけ言って出て行ったまま戻らなかった。
彼女は彼らの言葉に深く執着し、夢幻の園を守ることが彼女の使命だと信じ、毎日手入れを続けていた。

しかし、両親の不在によって園は少しずつ衰えていく。
美しい花々はしおれ、葉の色は失われ、空も暗い雲に覆われていた。
そんな中、幽美は夜な夜な、滴る水音を聴くようになった。
最初は小さな音だったが、日を追うごとに大きくなり、まるで誰かの声が聞こえるかのようだった。

ある晩、幽美が月明かりの中で夢幻の園を見つめていると、その滴が一つの影を作った。
薄明かりの中に、彼女の両親が立っていた。
「私たちを放してほしい」と言う彼らの声は、かすかに響き、風に流されて消えていった。

夢幻の園へ帰りたいという彼らの声が、幽美の心を揺さぶった。
彼女は両親のためにこの園を守り続けると決意していたが、その一方で、彼らがどこにいるのか考え始めた。
その晩、幽美は夢の中で彼らと再会することを願い、眠りに落ちた。

翌朝、幽美は不思議な夢を見た。
父が話す。
「私たちは約束を忘れてはいない。しかし、その誓いを果たすには、お前自身がこの園の真実を知る必要がある」と。
夢から覚めた幽美は、心の中で何かが動き出す感覚を抱いた。

その夜、滴る水の音に導かれるように、幽美は園の奥へと進んでいった。
彼女は若い頃に遊んだ場所や隠れた小道を辿り、かつての楽しい思い出が蘇る。
しかし、そこにはもう二度と戻ることのできない景色が広がっていた。

幽美が進むにつれて、滴は次第に大きくなり、やがて目の前に小さな池が現れた。
その水面には、数えきれないほどの滴が落ち続け、波紋を描いていた。
彼女はその水を触れてみると、冷たさが全身を貫いた。

彼女の胸に何かが去来する。
両親がどのような約束をし、どのように彼女を守ろうとしていたのかを。
池の水面には、彼女の両親の姿が映っていた。
幽美が何を決意したのか、彼らは理解していたかのように語りかけてきた。

「私たちはいつでもここにいる。約束を果たすためには、この園の命を守る必要がある」と。
その瞬間、幽美は決心した。
「私が必ずこの園を救う」と。

彼女は両親との思い出を心に刻み、園に注ぐ水を振り返った。
滴は逆に流れ始め、彼女の意思に応じて水が動くと、景色が変わっていった。
花が咲き誇り、鳥の声が響き、明るい太陽の光が差し込んできた。

そして幽美は、帰るべき場所を見つけた。
彼女はこの園の守り手として、両親の誓いを果たすため、夢幻の園を新たに花咲かせることを決心した。
その日から、滴の音は以前よりも美しい音色となり、村人たちも園に訪れるようになった。

両親との約束は、彼女の心の中で生き続け、夢幻の園は永遠の場所となった。

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