隣町の小さな港町で、船の名前は「継(つぐ)」と名付けられた。
この船は、昔からこの町に伝わる神社の神主が所有しているもので、町の人々にとって特別な意味を持っていた。
神主の家系は代々、神社の守護者としての役割を担っており、彼らにとって船は先祖から受け継がれた大切なものであった。
ある年の新月、町の人々は不気味な現象に悩まされていた。
夜になると町の至る所から、船の揺れる音や物音が聞こえてくることが増え、特に神社の近くからは声が聞こえることさえあった。
人々はこの現象を「船の囁き」と呼び、恐れおののいていた。
町の若者、翔(しょう)はこの現象を調査することに決めた。
彼は新月の夜に神社の近くへと向かい、「継」の側にたたずむことにした。
彼は神社の周りをよく知る地元の子供たちから、「継」との奇妙な関係を聞かされていた。
子どもたちは「この船は、亡き者たちを遠くへ運ぶ」という伝説を語っていた。
彼らによると、誰かが船に乗ると、その者は二度と戻れないという。
新月の夜が訪れ、翔は緊張しながら「継」に近づいた。
すると、まるで彼を待っていたかのように、船の上から冷たい風が吹き抜け、微かな音が聞こえてきた。
「翔、ここに来るのを待っていたよ…」その声は、かつての神主であり、翔の祖先でもあった人のものに似ていた。
翔は思わず背筋が凍りついた。
翔は船に一歩踏み出した瞬間、目の前に「継」が霧の中から浮かび上がり、彼を包み込むように揺れた。
その時、翔の目の前に祖先の姿が現れた。
彼は微笑みながらも、目はどこか悲しげだった。
「翔、私の後を継ぐ者として、町を救うために来たのか?」
翔は驚きと混乱を感じたが、亡霊の言葉に引き込まれるように心を決めた。
「どうすれば、町を救えますか?」その瞬間、「継」は急に揺れ始め、周囲の空気が張り詰め、翔は何が起こるのかわからなかった。
「船が求めるのは、あなたの純粋な願いだ。町に平穏を取り戻せるか、先祖の因縁を解き放つことができるか…」と祖先は言った。
その瞬間、翔の視界には町の景色が広がり、今まで聞こえていた囁きや声が明確に聞こえるようになった。
「町の人々が抱える恨みや悲しみ、それを背負う準備はできているのか?」祖先の問いに、翔は想いを寄せる町の人たちの顔を思い浮かべた。
彼は答えた。
「はい、私は町のために尽くす覚悟があります。」
すると、船の底から不気味に光が放たれ始めた。
それはまるで霊たちの涙のように美しく、悲しみの象徴のようでもあった。
翔は一瞬、心が引き裂かれるような感覚に襲われた。
町の人々、そして彼自身の運命が連鎖していることを感じたのだ。
だが、足元がぐらりと揺らぎ、翔は不安で目を閉じた。
「この先がどうなるのか、どのように選択すれば良いのか…」心の中で葛藤する彼を、祖先の声が現実に引き戻した。
「継の選択を、どのようにするかはあなた次第だ。希望を持ちなさい。」
翔はその言葉を心に刻み、覚悟を決めた。
船にとどまり、村の思いをすべて受け入れることを選んだのだ。
不安を飲み込みながら翔は言った。
「私がこの町の継承者になります。町の痛みを共に背負います。」
その瞬間、「継」は轟く音と共に動き出し、彼は意識を失った。
翔が目を覚ますと、町は静かで穏やかな夜が広がっていた。
しかし彼の心には、祖先の言葉と町の思いが強く刻まれていた。
町は長い闇を脱し、静かな朝を迎えていた。
「継」は新たな守り手を得たのだ。
翔はさまざまな思いを抱えながら、新たな生を歩き出した。
町の人々は彼を見送りながら、彼が運んできた平穏を静かに受け入れるのだった。