ある山深い場所には、秘められた「逆さ山」と呼ばれる不思議な場所があった。
この山には、奇妙な伝説があり、昔から地元の人々に語り継がれている。
それは、山の中に住んでいると言われる「怪」という存在と関係していた。
怪は、人間の姿をしており、誰もが一度は遭遇する可能性がある存在だったが、その姿を見た者は命を落とすと言われていた。
物語の主人公は、学生の和也だった。
彼は友人たちと一緒に山登りをすることを決め、逆さ山を目指して出発した。
日差しが強く、青空が広がる中で、彼たちは楽しい会話を交わしながら険しい道を進んでいった。
しかし、和也はどこか心がざわつくのを感じていた。
何かが彼らを監視しているような、不気味な感覚が頭をもたげていたのだ。
やがて、和也たちは山の頂上に近づくにつれて、何か異変が起き始めた。
突然、周囲の景色が逆さまに見えるようになった。
緑の木々が空に向かって伸び、曇り空からは逆さに流れるように水が滴り落ちた。
彼は驚きと恐怖を感じ、「これが逆さ山の現象なのか」と考えた。
その時、友人の一人が「何かいる!」と叫んだ。
和也は振り返ると、薄暗い森の奥から、不気味な姿をした怪が現れた。
彼の姿は人間のようでありながら、目はまるで深い闇を映し出すような空洞になっていた。
和也は恐怖のあまり身体が動かず、ただその場に立ち尽くしていた。
「逆さに生きる者よ、何を求める?」怪の声が、風に乗って響いてきた。
その声は低く、どこか魅了されそうになるような不気味さを感じさせた。
和也は考えた。
これが逆さ山での現象なのか?怖がってはいけないと自分に言い聞かせたが、体は動かなかった。
「あなたも生きたいのか?」怪は続けた。
「だが、ここには誰も生き残らない。それがこの山の掟だ。生きることが許されるなら、逆に生きてみせよ。」
和也は混乱した。
逆さに生きる?それは一体どういうことなのか。
彼の思考は真っ白になり、ただ恐怖だけが膨れ上がる。
友人たちはすでに逃げ始めていて、和也もその流れに乗るべきだと感じたが、身体が言うことを聞かなかった。
「生きるという意味を知りたければ、真の逆に立つがよい。さあ、選べ。命を選ぶか、恐怖の中で迷うか。」怪の声が再び響いた。
和也は意を決し、もう一度友人を見つめ直した。
彼は一緒にいる友人を助けたかったが、それが逆さの生を選ぶことになるのかどうか、全くわからなかった。
「何が正しいのか、わからないよ!」和也は叫んだ。
すると瞬間、怪が微笑んだように見えた。
「逆さに生きることで、あなたは真実に向き合うことになる。」
その言葉を聞いた瞬間、和也は頭の中が整理されていくのを感じた。
逆さに生きるとは、自分が本当に求める生を見つける過程であるのかもしれない。
恐れに立ち向かうことで、逆転した世界での真実が見えるのかもしれないと思った。
それから、彼は友人たちとともに、一歩踏み出すことを決心した。
やがて、怪は静かに消えていった。
残ったのは彼らの意志だけだった。
和也は目を根っかけに、逆さ山を再び見上げた。
山が彼にどう語りかけるのか、今はその真理を理解しに行く準備ができていた。
生きること、または生きないことの選択は、自分の心の中にあると強く信じることができたのだ。