止の町は、どこか影が落ち着いている場所で、古い伝説が根付いている。
その伝説の一つに、町の外れにある古びた神社が関係していた。
神社は元々、祖霊を祀る場所として人々に敬われていたが、ある日、不吉な出来事が起こり、人々は神社に近づかなくなった。
それ以来、その場所は「壊れた神社」と呼ばれ、訪れる者は皆、何かしらの悪影響を受けるという噂が立ち始めた。
その町に住む一人の青年、健太は、奇妙な町の噂に興味を持つ性格だった。
特に「壊れた神社」の伝説には強く惹かれ、恐れを知らぬ少年のように、訪れることを決意した。
健太は友人である真由美を誘い、二人はその神社を目指すことにした。
神社に近づくにつれ、空気は次第に重く、何かが圧迫するような感覚に包まれた。
古い石鳥居を抜けると、神社は別世界に迷い込んだかのように静まり返っていた。
雨に打たれた木々と朽ち果てた社殿は、まるで時間が止まったかのようで、まるで壊れた現実にいるように思えた。
聳え立つ木々の隙間から見える暗い空は、どこか不吉な予感を与えていた。
健太は少しの勇気を振り絞り、神社の中に足を踏み入れた。
真由美は不安そうに彼の背後からついて行く。
「やっぱり、ここはおかしいわ。早く帰ろうよ。」と、彼女は呟いた。
しかし、健太の好奇心はその言葉を押しのけていた。
社殿の中に入ると、薄暗い空間に不気味な静寂が広がっていた。
彼らは周囲を見回しながら、神社の中心に足を運ぶ。
そこには、お供え物が腐りかけた状態で置かれていた。
見た目には何の変哲もないが、それは祖霊への侮辱に他ならなかった。
その瞬間、健太の目の前に黒い影がひらりと現れる。
影は次第に形を成し、神社の神々しさを壊すような軋む音を立てる。
青白い霊体が彼に向かって囁く。
「この地に抗う者よ、あなたの心の中にある恐れを見せよ。」
突然、健太はその影に引き寄せられるような感覚に襲われた。
心の底に潜んでいた不安や恐れが視覚化され、影はそれを吸い取っていく。
彼は混乱し、逃げようとするが、影は彼の進む先を塞いでいた。
真由美は健太の腕を掴み、「行こう、出て行こう!」と叫ぶが、彼の耳に届かない。
影は声を張り上げて告げた。
「止まりなさい。この地で何を抗うつもりか。」その言葉は彼の心に響きわたった。
健太は自身の過去、失った家族や仲間、自身の無力さに向き合わざるを得なくなった。
彼は抗おうとしながらも、一歩一歩後退していく。
「あなたは一人ではない。」真由美の声が、ふと彼を解放した。
彼女の手を掴み、気力を振り絞ったその瞬間、影は一瞬揺らいだ。
彼女の存在が彼を支え、影の力に抗う力となった。
健太は真由美を引き寄せ、共に外へ駆け出した。
影が追いかけてくるが、神社の外に出た途端、影はその場から消え去っていった。
きっと彼らが抗ったことで、影は何かが壊れ、力を失ったのだと感じた。
二人は息を切らしながら、神社の外に立ち尽くした。
町の平穏が戻りつつあるのを感じ、雲の切れ間から薄っすらと陽射しが差し込んできた。
彼らは立ち去る決意を固め、もう一度振り返ることはなかった。
その日以降、健太と真由美は「壊れた神社」の話をすることはなかったが、彼らの心の中には確かに一つの抗った経験が生き続けていた。