舞台は静かな村、深い山々に囲まれたその場所には、昔から忌まわしい伝説があった。
人々が口にすることが少ない「吸い霊」の話。
村には、夜になると現れる不気味な影があり、近づいた者はその影に引き込まれ、二度と戻れないという。
特に、その影にひかれるのは、怨念を抱く者や他人に対する嫉妬を持つ者だと言われていた。
ある日、大学生の佐藤直樹は、夏休みを利用してこの村を訪れた。
彼は歴史に興味を持つ好奇心旺盛な若者で、特にこの村の伝説に魅了されていた。
友人たちと共にキャンプをし、この古い伝説の真偽を確かめるために村へと向かったのである。
夜になり、キャンプファイヤーを囲む中、直樹は村の伝説について話し始めた。
「この村には、その吸い霊に取り憑かれた者がいるって聞いたことがある。彼らは全てを壊され、何もかもを失った結果、ただの影になってしまったんだ。」彼の言葉に、友人たちは笑いながらも、薄暗い森を気にするように周囲を見回した。
だが、直樹はさらにその話を続けた。
「その吸い霊の根源は、かつてこの村で起きた暗い復讐劇にあるらしい。昔々、村の一人の男が、恋人を奪われたことで恨みを募らせ、自らの命を絶ったと言われている。その男は死後、自らの怨念を抱えたまま、吸い霊となって村を彷徨っているんだ。彼は、嫉妬や恨みを持つ者を吸い込み、その魂を壊してしまうらしい。」
その話が終わると、友人たちは次第にその場の雰囲気が不安に変わっていくのを感じ始めた。
直樹は興奮と興味からくる興奮によって、何かが起きることを望む気持ちが芽生えていたが、それと同時に誰かが真剣に警戒を強めている様子も感じ取った。
夜が深まるにつれて、直樹は一人で山の中へと入っていった。
彼には、吸い霊の真相を直に確かめたいという熱意があった。
彼はその影に遭遇することを夢見ていた。
恐怖と好奇心に駆られるまま、彼はさらに進んだ。
月明かりが照らす中、直樹は急に背後から声を聞いた。
「おい、直樹、戻れ!」と、友人の声だった。
しかし、彼はその声を無視し、さらに深く山の奥へと入っていった。
ふと、静寂が周囲を支配したとき、直樹は突然不気味な気配に気づいた。
薄暗い木々の間に、何かが彼を見つめている。
視線を感じたその瞬間、彼の心に重い冷たい感覚が襲いかかった。
それは、恨みを抱える者が持つ独特の空気。
直樹は恐怖に駆られ、立ち去ろうとしたが、すでにその影に引き込まれていた。
彼が振り返ると、目の前に立っていたのは、青白い影を持つ男だった。
彼は無言で直樹に近づいてきた。
直樹はついにその男の顔を見た。
そこには、彼が憎んでいた相手の姿があった。
彼の心の中に抱いていた嫉妬や恨みが、あの昔の男の怨念として具現化したのだ。
直樹は恐怖に歪むその顔を見ながら、彼の心の中で何かが崩れていくのを感じた。
彼はその怨念に引き込まれ、吸収されていく。
直樹が抱いていた恨みが、影として彼の中へ入っていく。
彼は自らの運命を理解し、自分や他者が持っていた感情によって、すでに何かが壊れ始めていたことを知った。
そして、彼は気づいたときには、周囲はすっかり変わっていた。
彼は影の中に立たされていた。
もはや、彼自身の存在はただの儚い影となり、村の記憶に埋もれ消えていくことしかできなかった。
彼の目の前には再び、その吸い霊の姿が浮かんでいた。
彼はもう、逃れることはできなかったのだ。