逆さまの神社の呪縛

田中は、友人たちと共に肝試しに出かけることにした。
彼らの目的地は、町外れにある古びた神社。
神社には昔から語り継がれる怪談があり、その中でも特に有名な話は「逆さまの神社」というものであった。
この神社の神様は、日常の「普通」を逆さまにする力を持っていると言われていた。
そのため、訪れた者は不思議な経験をすることが多く、時にはそれが恐怖に繋がることもあるという。

田中たちはその話を半信半疑で聞きながらも、肝試しの興奮を隠せなかった。
神社に到着すると、寂れた入り口が彼らを迎えた。
薄暗い空気に包まれた境内の中で、彼らは無邪気に笑いながら、神社へと足を踏み入れた。

神社の中は静寂に包まれ、時折風が木々を揺らす音だけが耳に入る。
彼らは拝殿に集まって、別々の願い事を心に抱きながらお参りをした。
田中は思わず「普通の生活が続きますように」と心の中で呟いた。
友人たちも、愛や仕事のことを願いごとに乗せていた。

神社を後にする頃、田中は友人たちの一人が急に変わった態度を見せるのに気がついた。
佐藤が不安そうに周囲を見回していた。
「なあ、これって普通じゃないか?」彼は恐る恐る呟いた。
田中はその言葉に疑問を持った。
まさか本当に逆さまの神社の影響が出ているのか?

その夜、田中たちは別々の夢を見た。
田中は夢の中で、自分が神社の神様になっていた。
眼前には自分自身が立っていて、普通の生活を望む田中が不安そうにこちらを見つめていた。
そして、田中はその願いを逆さまにする力を使った。
次の瞬間、普通の生活を求める彼自身が、自分が望んでいた恐怖と不安に満ちた状況へと引きずり込まれていく幻を見た。

目が覚めると、田中は汗びっしょりになっていた。
彼は周囲を見回すと、他の友人たちも同じように不安そうな表情を浮かべていた。
「やっぱり、あの神社の話は本当かも…」田中は心の中で思った。
翌日、彼らは集まり、夢の内容を語り始めた。
すると、他の友人たちもそれぞれ逆さまの願い事を体験していたことが分かった。

その後、田中たちの生活には変化が現れた。
普段の生活が日常とは逆転し、何もかもが上手く行かなくなり始めた。
仕事の面では失敗が続き、恋愛も思いどおりにならず、どれもこれも逆転してしまったように感じた。
特に、田中にとっては新しい恋人ができたが、その関係はまるで逆のように、彼女が田中から離れて行くばかりだった。

田中はこの状況をどうにかしなければならないと考え、再び神社へ向かうことを決意した。
今度は逆さまの神様に土下座して、元の生活に戻して欲しいと懇願するつもりだった。
恐れと不安を抱えながら、彼は神社の境内にたどり着く。

再度、拝殿の前に立つと、彼は心からの願いを込めて涙を流した。
「元の普通の生活に戻してくれ…お願いだ!」神様の力を信じ、強く願った瞬間、彼は身体を揺すぶられ、闇の中に引き込まれる感覚を覚えた。

目を開けると、田中は神社の外に立っていた。
何も変わっていない景色が目に映る。
しかし、何かが逆さまになったような感覚が彼を包み込んでいた。
周囲を見回すと、友人たちが彼を不安げに見つめていた。
まるで彼だけが知らない現実に引き込まれているかのようだった。

これが終わりと思った矢先、田中は気が付いた。
逆さまの生活は本当の恐怖に、終わりがないことを意味していた。
どれだけ願っても、彼らの生活は普通に戻ることはないのだ。
彼は何もかもを逆に見つめ続けるしかなかった。
その瞬間、田中は逆さまの神社の伝説を心の底から理解したのだった。

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