「鏡の中の迷い」

ある静かな夜、古びた館の中で一人の青年、亮太が不安を抱えながら目を覚ました。
彼は友人たちと肝試しに来て、この館に泊まることになった。
しかし、館は外から見るよりもずっと広く、暗い廊下が無限に続いているように感じられた。
どの部屋も異様な気配を漂わせており、亮太は急にその場から逃げ出したい気持ちになった。

友人たちは冗談まじりで陽気に笑い合っていたが、亮太はなぜかその笑い声が次第に遠く感じられていくのを実感した。
「本当にこんなところにいるのは馬鹿みたいだ」と彼は思った。
その時、色々な思いが交錯して、心の中に迷いが生じていた。
館の中はまるで自身の内面の混沌を反映しているかのようだった。

彼はふと一人になりたいと思い、廊下を進んでみることにした。
周囲の静けさと薄暗さが彼の心を一層不安にさせる。
途中、一つの大きな扉が目に入った。
それは他の部屋とは異なり、細かな装飾が施されており、どこか不気味な魅力を放っていた。
彼は迷いながら、その扉に手をかけ、中へと足を踏み入れた。

その部屋には古い家具や絵画があり、中央には大きな鏡が立てられていた。
亮太が鏡を覗き込むと、映り込んでいる自分の姿が不思議と永遠に感じられた。
不安な心が昂じる中、彼は鏡の中の自分の表情が次第に変わっていくのを見た。
いつの間にか微笑みを浮かべる自分がいた。
そして、彼はその微笑みがまるで自分ではない誰かのものであることに気づいた。

「なぜ、私を見ているのか?」亮太は思わず声を漏らした。
鏡の中の自分は反応を示し、かすかに頷いた。
恐れに駆られた亮太は急いで鏡から目を逸らしたが、まるでその瞬間が永遠に続くかのように感じられ、彼は動けなくなってしまった。
心の中で実感していた恐怖が次第に現実を侵食していく。

やがて彼は、自分が館の中で迷っていることに気づいた。
脳裏には友人たちの声があったはずだが、それらが徐々に薄れていく。
また、鏡の反映の中にいる自分が今度は自分に向かって手を伸ばしてきた。
「こちらへ来い」と呼ぶ声が響く。
亮太は心の何処かでそれに従おうとする自分がいたが、同時にそれが悪夢のような何かであることを理解していた。

「戻れ、戻れ」と心の中で叫びながら、彼は必死にその場から逃げ出そうとした。
しかし、館の廊下はますます複雑に絡み合い、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまった。
鏡の中の自分は、彼を待ち続けていた。

それからどれほど時間が経ったのか、亮太はやっと友人たちの声を見つけ、自らの存在を取り戻そうとした。
彼は力を振り絞り、一つの扉を開け、再び陽気な笑い声に辿り着いた。
「良かった、見つけた!」と友人の一人が言った。
彼はほっと安心し、館の出口へと向かう。

しかし、その瞬間、亮太は振り返り、再びその鏡の部屋を振り返った。
中には変わらず、笑顔を浮かべる自分が映っていた。
「お前の心には、永遠に迷い続ける恐怖が存在する」と聞こえた声は、とても遠くから響いてくるようだった。

その後、彼は友人たちと館を後にしたが、心の奥には首をもたげる恐れが根付いていた。
亮太は自分の心の中で迷い続け、再び訪れることのないよう願う一方で、あの館を忘れることはなかった。
彼が自分の存在を決して軽視しないよう、心に刻み続けたからだ。

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