「消えた仲間たち」

静かな地の底、深い闇の中にある廃墟があった。
その場所は、かつて小さな町の住人たちが集まり、楽しい想い出を重ねていた公民館だったが、ある日、突如として地震が襲い、土砂崩れによってその姿は消え、今は誰も近づかない名も無き場所となっていた。

しかし、好奇心旺盛な若者たちは、この廃墟が秘めた過去に興味を持ち、肝試しをするために集まってきた。
参加者は、智也、彩、そして健一の三人。
それぞれの性格は異なるが、恐怖心を超えた探求心で結ばれていた。

夕暮れ時、彼らは廃墟の入口に立った。
土砂によって押しつぶされ、入口は狭く、奥の暗闇を完全に隠していた。
智也が懐中電灯を照らしながら言った。
「入る前に、一つだけ約束しよう。絶対にお互いから離れないこと。」

彩は頷き、健一も「大丈夫、ついてくるさ」と言った。
その言葉を信じて、彼らはゆっくりと廃墟の中へと入っていった。

室内は、時が止まったかのように静まり返っていた。
古びた壁、崩れた天井、そしてかつての記憶を残す家具たち。
彼らは探検を続けたが、心のどこかで不安が渦巻いていた。

「何か感じない?」彩が言った。
周囲を見渡しながら、彼女は不安を隠せなかった。
智也は冷静に「幻想だよ、幽霊なんていない」と返したが、その目には微かな怯えが見えた。
健一は何も言わず、ただ薄暗い廊下を進んだ。

彼らが奥へ進むにつれて、廃墟の中の空気が重苦しくなっていった。
突然、暗闇の中から耳をつんざくような叫び声が響いた。
彼らは驚き、思わず離れそうになったが、智也が「大丈夫、みんな一緒だ」と言って手をつないだ。
だが、その瞬間、健一の手が抜けてしまった。

「健一!?」という叫び声が響く中、健一は闇の中に呑まれてしまった。
彼の姿が見えなくなると、智也と彩は必死に懐中電灯を振り回して探した。

「どうしよう、彼を見つけなきゃ!」と彩が言った。
智也は焦りながら答える。
「大丈夫だ、すぐに戻ってくるさ!」その言葉も虚しく、健一の姿は見えないままだった。

彼らは再び声を呼びかけ、健一の名前を叫び続けたが、返事はなかった。
次第に彼ら自身の声すらも、不気味に空間に吸い込まれていく気がした。
恐怖が彼らの心を侵食し、逃げ出したい衝動を抑えるのが難しくなった。

「やっぱり、もう帰ろうよ。こんなの無理だ。」彩が俯いた。
智也は彼女に手をかけ、目をしっかりと見つめた。
「まだ諦めるな。絶対に健一を見つける。」

再び彼らは動き出したが、進む先にはただの影しかなかった。
とうとう、疲れ果てた彼らは、丸い部屋にたどり着いた。
その部屋の中央には大きな鏡が置かれていた。
だが、その鏡には明らかに異なる様子が映し出されていた。

鏡の中の映像には、廃墟の廊下を走る健一の姿が映っていた。
彼は何かから逃げるように見え、その表情は恐怖と必死な思いに満ちていた。
「健一!こっちだ!」と智也が叫ぶと、鏡の中の健一が振り向いた。
しかし、彼がこちらを見つめる目は、まるで何かを訴えかけているかのように暗く沈んでいた。

「お願い、助けて!」という声がふいに届く。
だが、その声は鏡の反響のようにしか聞こえなかった。

「この鏡、何かおかしい!」智也は警戒心を強めた。
しかし、彩はひとつの考えに取り憑かれていた。
「もしかして、これが彼を助ける方法なのかもしれない。」彼女は鏡の前に立つと、こちらに手を差し出した。
「健一、こっちへ来て!」

その瞬間、鏡の面が波紋を立てると同時に、廊下の影から冷たい風が吹き抜けた。
智也は慌てて彩の腕を掴み、「戻れ!」と叫ぶが、彼女はその声を聞かずにそのまま鏡に触れてしまった。

次の瞬間、彼女はそのまま消えてしまった。

智也は背後に迫る闇を感じながら、絶望の中で単独となった。
彼は振り返り、廃墟の出口へ向かおうとしたが、すでに出口は土で塞がれていた。
彼は心の中で二人のことを思い、深い闇に飲まれていく恐怖を感じながら、やがてその場に立ち尽くした。

地の底に響く静寂の中、彼はただ一人、永遠の闇の中で迷い続けた。
失った仲間たちの声さえも、もう届かないのだった。

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