ある日、町の小さな書店に住む子供、翔太は、いつものように本を借りに行った。
その書店は古く、薄暗い中に無数の本が並んでいる。
くすんだ背表紙の本たちは、どこか寂しげに見えた。
翔太は、本の間を歩きながら、自分のお気に入りの冒険物語を探していた。
書店の一角には、見慣れない本が目を引いた。
それは、真っ黒な表紙の分厚い本で、「離」というタイトルが金色の文字で刻まれていた。
翔太は、その本に強く引き寄せられ、思わず手に取った。
表紙をめくると、ページの隅に小さな文字が書かれている。
「この本を読んだ者は、心が離れた者に出会う。」
翔太は、好奇心に駆られてその本を持って帰ることにした。
家に戻り、ベッドに横になって読み始める。
内容は恐ろしいほど現実味を帯びた物語で、主人公が大切な人との関係を失い、スピリチュアルな世界で再会を果たす話だった。
物語が進むにつれ、翔太は不思議な感覚に包まれた。
まるで、自分がその主人公になってしまったかのような気持ちだった。
その夜、翔太は夢を見た。
彼が大好きな祖父が現れ、自分に向かって穏やかな笑顔で手を振っている。
祖父は数年前に亡くなっていたが、翔太にはその記憶が色鮮やかに残っていた。
夢の中で、翔太は祖父に会えたことを喜んだ。
2人は楽しい会話を交わし、また昔のように遊びに行く約束を交わした。
しかし、別れ際に祖父は「離れた者に近づくことは、時に苦しむことでもある」と言った。
翔太は目を覚ますと不安に襲われた。
祖父の言葉が何を意味するのか、そして自分が「離」という本を手にしたことで、何が起こるのか心配になった。
だが、本が気になって、翔太は再びその本を開いた。
すると、ページをめくるたびに、場面が変わっていき、自分の周りの景色が変わっていくように感じた。
まるで別の次元に引き込まれているかのようだった。
時が経つにつれ、翔太は次第に現実と夢の境界が曖昧になり、学校でも友達と遊ぶことに興味を失い、ますます本に没頭するようになった。
祖父との思い出に浸りながら、彼は本の中の世界で祖父と過ごすことを選んだ。
だが、翔太は次第に孤独を感じるようになった。
ある日、翔太は再び夢の中で祖父に会った。
今度は、祖父の表情が暗くなっていた。
「お前は大事なものを忘れている。現実の世界にはお前を思っている仲間たちがいるのに、彼らから離れないでほしい。」と言った。
その言葉が心に響いた瞬間、翔太は恐怖を感じた。
翔太は覚醒と同時に、夢の中の世界と現実の世界が融合していることに気づいた。
気づいた時には、彼は書店の前に立っていた。
そして、彼の手にはあの黒い本がしっかりと握られていた。
その時、翔太は気づいた。
本には自分を孤独にする力があった。
そして、祖父との再会が自分を離れさせる原因であったことも。
翔太は本を処分することを決意した。
気持ちを込めて本を返却し、書店の扉を閉めた。
その後、翔太は仲間たちとの時間を大切にし、祖父との思い出も胸にしまい込むことにした。
不安に打ち勝つことで、彼は再び周りの人々との関係を取り戻すことができた。
しかし、気を抜くといつでも「離」の本が戻ってきてしまうことを、彼は忘れてはいなかった。
そっと振り返らないように、翔太は明るい未来を見つめることにした。