「忘れられた神社の囁き」

たまたま迷い込んだ、静かな街の外れに位置する古い神社。
そこは、人々の記憶から徐々に忘れられていく場所だった。
大学生の健太は、友人たちとともに肝試しをすることになり、その神社に足を運んだ。
健太は普段から肝試しを楽しむタイプではなかったが、仲間のために参加することにした。

神社の境内に足を踏み入れると、周囲は異様な静けさに包まれていた。
風がないわけではなかったが、どこからともなく感じる不気味な冷気が彼の心を蝕む。
仲間たちは笑い声をあげながら、恐れを知らない様子で先に進んでいくが、健太はしばらく立ち止まっていた。
その時、ふと目に入ったのは、古ぼけたお守りであった。
そんな小さなものの中に何か特別な意味が込められているように思えた。

「おい、健太!早く来いよ!」仲間たちの声に気を取られ、健太はお守りをそっとポケットにしまった。
そして、友人たちの後を追った。

神社の奥に進むにつれて、暗闇が彼らの周囲を包み込んでいく。
ふとした瞬間、健太の耳元に微かな声が聞こえた。
「お前、ここにいるのか?」その声は、誰かが彼に問いかけているように感じた。
驚く健太は、心の中で動揺しながらも「なんだろう、気のせいかな」と思ってやり過ごした。

しかし、その声は次第に鮮明になり、彼の頭の中で響き渡った。
「お前は、本当に望んでいるのか?」その言葉はまるで彼の心の奥深くに潜んでいる思いを引きずり出しているようだった。
自分が何を望んでいるのか、何を求めているのか、彼はその瞬間わからなくなった。

その時、友人の一人が「健康の神様にお願いしたらどう?」と提案した。
皆は笑いながら、それに同意し、健太もその流れに乗った。
お祈りをした後、健太はまたあの声を聞いた。
「お前には挑戦が必要だ。自分と向き合え」と。

その後数日間、健太は普段とは違う感覚に包まれていた。
日常生活に支障をきたすわけではないが、心のどこかに重い何かがのしかかっていた。
友人たちは健太の様子を心配して「最近元気ないな」と声をかけてきたが、彼は「大丈夫」と笑顔を見せるに留めた。

ある夜、健太は夢を見た。
夢の中で、神社のお守りが彼に訴えかけていた。
「お前の望みは何だ?それに気づかなければ、人生はただの惰性だぞ。」まるで声が彼を試しているかのような夢だった。

数日後、健太は再び神社を訪れた。
前回とは違い、自分が何を望んでいたのか、何が重要なのかを考えるために、一人で静かにその場に立ち尽くしていた。
やがて、あの声が再び耳元で響いた。
「お前はどんな結果を望む?恐れを乗り越え、自分に正直になれるか?」

その問いかけに、健太は深く考えを巡らせた。
結論が出ないまま、もう一度お守りに手を触れようとした瞬間、背後に不気味な影がちらりと見えた。
「望み、かなえるなら、自分の恐れを捨て去ることだ」と囁く声がした。
驚愕し、振り向くと、そこには誰もいなかった。
しかし、その瞬間、健太の心の奥底で何かが崩れ落ちる音を聞いた。

その後、彼はその神社を訪れることはなかったが、心の中には明瞭な「望み」が残り続け、それを忘れない限り、彼は自分の人生と向き合うことができると信じていた。
そして、健太は恐れを乗り越え、新たな道を進み始めたのだった。

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