「壊れた星の囁き」

小さな村に住む美咲は、毎晩、薄暗い神社の境内で祖母の話を聞くのが楽しみだった。
祖母はかつて、美咲が幼い頃に語った数々の怖い話を大切にしていて、今では村に伝わる星座や神話に加え、不思議な現象についても教えてくれた。
しかし、最近、美咲は祖母が少しおかしくなっているのではないかと感じ始めていた。

ある晩、神社で美咲は祖母と一緒に星を眺めていると、ふと目を凝らすと、夜空に浮かぶ星々の中に、一つだけ不気味に光を放つ星を見つけた。
その星は、まるで村を照らすように輝いていたが、その光はどこか狂気を帯びていた。
「あの星、気になるな」と美咲が言うと、祖母は急に表情を変えた。
「あの星には、気をつけなさい。壊れたものが戻ってくるから。」

美咲はその言葉を深く考えずに聞き流したが、翌日、祖母がまるで壊れた人形のように動く姿を見て、心の中に不安が広がった。
以前とはまるで違って、目の輝きも失われ、口からは途切れ途切れの言葉しか発せられなかった。
美咲は祖母を病院に連れて行くべきかと悩んだが、村人たちは「この村では病院へ行くことは縁起が悪い」と言い、高齢者の健康に不安を抱える美咲の心をますます揺らした。

数日後、祖母が他界した。
美咲は悲しみにくれ、最後に祖母から聞いた話を思い出した。
あの壊れた星のこと、そしてそれが村に何をもたらすのか知りたくなった。
美咲は祖母の話を思い返しながら、もう一度神社へ行くことにした。
暗闇の中、唐突に訪れた静けさが不気味さを増していた。

祭壇に手を合わせた美咲は、祖母を思い出して涙を流した。
しかし、その瞬間、不意に肌を撫でる冷たい風が彼女を包み込んだ。
まるで誰かが近くにいるかのように感じ、思わず振り向くが、周囲には誰もいなかった。
彼女は再び目を閉じ、心の中で祖母に話しかけた。

「おばあちゃん、私を助けて…」と懸命に呼びかけたその瞬間、彼女の背後から、冷たい手が肩に触れた。
思わず振り向くと、そこには祖母の姿があった。
古びた衣装を纏い、無表情のまま立ち尽くしてる。
美咲は一瞬、驚き、混乱した。
祖母は確かに亡くなったはずの存在だった。

「気をつけなさい、美咲。壊されたものは戻ってくる…」祖母の声は、まるで冷たい風のように彼女の耳を打つ。
それは、生きているはずの祖母の声とは思えない不気味な響きだった。
そして、美咲はすぐに気づく。
「あの星…、あなたの大切な気持ちが、あの星のせいで壊れてしまったの?」

その瞬間、彼女は深い闇に引き込まれていくような感覚に襲われた。
周囲がぐらぐらと揺れ、星座までが歪み始めている。
その光景に恐れを抱いた美咲は、急いで神社を飛び出した。
そのまま村の外へ走り続け、ついには行きついた先で転倒した。
星の光が遠くから彼女を見守っているように感じられた。

時が経ち、美咲は祖母を追いかけることを諦め、村へ戻った。
村人たちは彼女に心配して話しかけてくれたが、彼女の心はもう元通りには戻れなかった。
彼女の中には、消えた祖母への思いと、失われた気持ちの間に広がった空白が残った。

壊れたものは戻らない、という祖母の言葉が美咲の心に次第に染み込んでいった。
彼女は、自分が選んだ道を進み続けることで、祖母の大切にしていたものを受け継ぐことができるという思いに満たされることを願った。

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