深い霧に包まれた荒野には、かつて栄えた村があった。
しかし今、その村は人々の記憶から葬り去られ、誰も近づかない不気味な場所となっていた。
村の中心には、朽ち果てた井戸があり、その水は奇妙な噂を集めていた。
「井戸の水を飲んでしまった者は、狂ってしまう」と。
ある晩、三人の若者がこの荒野に足を踏み入れた。
健太、直美、そして修一。
彼らは都会の喧騒に疲れ、忘れられた村の話を聞いて興味を抱き、恐怖心を抱えながらも冒険を求めて足を運んだのだった。
深い霧が彼らを包み込む中、村の名残と荒れ果てた景色が目の前に広がっていった。
「この村、本当に不気味だな」と健太が言った。
彼は不安そうに周囲を見回し、何かが視線を向けているような奇妙な感覚を覚えた。
直美は「井戸を見に行こうよ」と、少し興奮した様子で提案した。
彼らは村の中心へと向かい、朽ちた井戸の前に立ち尽くした。
水は静かに澄んでいたが、その奥にはどこか狂ったような気配が漂っている。
修一は「やめたほうがいい。井戸の水は危険だって話だろ？」と慎重に進めたが、直美はのぞき込む。
「大丈夫だよ、ちょっとだけ見てみよう」と彼女は言い、井戸の中に手を伸ばそうとした。
健太は直美の腕を引き止め、「本当にやめたほうがいい」と必死で訴えた。
その瞬間、井戸から冷たい風が吹き出し、彼らの心に恐怖が走った。
しかし、直美の目は井戸の水に吸い込まれるように釘付けになってしまっていた。
「何か、見える…」と彼女は呟く。
健太と修一は不安げに互いの目を見交わし、直美の様子を心配した。
しかし、直美はすでに何かに取り憑かれたかのように、井戸の水に引き寄せられていた。
その晩、直美の様子はおかしくなった。
彼女は徐々に狂気を帯びていき、言葉を繰り返すようになった。
「救って…救って…」その声は低く、震えていた。
健太と修一は、彼女の異常に恐怖を抱きつつも、どうにかしなければと焦り始めた。
彼らは村の伝説を思い出した。
「井戸の水を飲んでしまった者は、狂ってしまう」と。
しかし、今直美もまた、その呪縛に囚われてしまったのだ。
彼女の視野は狭まり、周囲の人々を見ているようでいて、実際には何か別のものを見ているように見えた。
「助けてやろう、直美」と修一が言い放った。
「私たちの絆があれば、何とかなる！」彼は直美の手を握り、心を鎮めるように呼びかけた。
健太も「俺たちが一緒にいる限り、大丈夫だ」と言い、二人で直美を支えようとした。
その時、井戸から再び息苦しい風が吹き出した。
「合わさることで、この呪いを振り払えるはずだ！」修一が叫んだ。
三人は手を取り合い、井戸を囲みながら心の奥に抱く恐怖を乗り越えようとした。
直美は不安定な心のなかで、彼らの声を感じ取ろうと必死だった。
「私たちは輪となって、決して離れない。あなたは孤独じゃない！」健太の言葉が直美の心に響いた。
彼女は徐々に冷静さを取り戻し、狂気に負けていない自分を感じ始めた。
彼女の内にある不安は、他の二人の絆によって徐々に打ち消されていった。
静寂のなかで、井戸の水面が少し波立ち、何かが解除される感覚が伝わってきた。
直美は目を開き、「救ってくれた…」と小さな声を漏らした。
その瞬間、井戸の内部が光に包まれ、何かの呪縛が解けていくのを感じた。
三人はそのまま手をつなぎ、嵐のような狂気を乗り越えた。
霧は次第に晴れ、荒野も少しずつ日常を思い出していく。
彼らは絆の力が、狂気を救い出したことを強く感じ、これから先も共に歩んでいく決意を新たにしたのだった。
