「引き寄せられた窓」

静かな田舎町にある一軒家。
外観は古びているが、内装は意外にも新しい。
その家は、長年空き家のままで、住む人が訪れない噂さえ流れていた。
噂によると、その家の窓には人を引き寄せる奇妙な力が宿っているという。
訪れた者は、必ず窓に目が行くからだ。
その魅力に抗えず、いつの間にか家に足を踏み入れ、二度と帰れなくなると言われていた。

ある日、大学生の薫は友人たちと一緒に、肝試しのためにその家を訪れることにした。
友人たちと一緒に夜の暗闇に包まれた家の前に立ち、ドキドキしながら中に入る。
興奮と緊張が混ざり合い、まるで映画の中に迷い込んだような気分だった。

中に入ると、家は意外にも整然としていた。
家具は一部が古びてはいたが、埃をかぶっている様子もなく、誰かが定期的に手入れしているように感じられた。
友人たちはそれぞれ、談笑しながら隅々を探検し始める。
薫も彼らに続いて、階段を上がり、二階の部屋を覗いてみた。

その部屋には、大きな窓が一つあった。
外は真っ暗で、何も見えない。
しかし、窓のガラスはどこか光を放っているように見え、思わず引き寄せられる。
薫はその窓に歩み寄り、自分の姿を映してみた。
次の瞬間、彼女は窓の外に視線を奪われる。
何かが、彼女をここに呼んでいるように感じた。

その時、誰かの声が耳に届く。
「入っておいで。」その声は囁くようで、友好的に響いた。
薫は自分の心の中で、不安と好奇心が渦巻くのを感じた。
友人たちとの約束を思い出し、彼女はこの声に背を向けようとしたが、どうしてもその魅力から逃れられない。
彼女は窓を開け、その声に導かれるように一歩踏み出してしまった。

窓の外には何もないはずなのに、彼女はまるで深い闇に吸い込まれていくかのように感じた。
耳元で聞こえる声は、ますます大きくなり、薫の思考を侵食していく。
「もっと近くにおいで、ここは安全だよ。」その言葉に心惹かれた薫は、無意識に窓の外に伸びた。
だが、その瞬間、彼女は気づいた。
窓の外には、かつて誰かがここで迷い込んだ影が無数に浮かび上がっていた。

驚きと恐怖が同時に押し寄せる。
彼女は後ろを振り返るが、友人たちの姿はもう見えない。
完全に孤立し、その場所に囚われてしまったことを理解する。
窓から出る手は、彼女を引き込むように形を変えて、彼女の心をつかもうとしていた。
薫は叫び、逃れようと身を引こうとしたが、その瞬間、声がさらに強く彼女を引き寄せた。

「逃げられないよ。ここは罠なんだから。」その言葉が耳に響き、彼女は完全に包囲され、意識が朦朧としていく。
取り返しのつかないことになってしまった。
彼女の脳裏には、前にその家を訪れた人々のことが浮かび上がる。
彼らも似たような気持ちで、この窓に引きこまれてしまったのだろう。

窓の向こうで、暗闇が彼女を包み込み、彼女は過去の存在として永遠にそこに残されることになった。
いつの間にか、自分もその影の一つになり、来る者を待ち続けることに。
人々がその家の窓に目を向けるたび、自分の声が誰かを呼び続ける。
それは最後の罠であり、今も静かに静まり返った夜の中で、彼女は影の一部として存在し続けている。

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