「失われた道を辿る影」

美は、静まり返った東京の片隅にあるトンネルを通ることに決めた。
彼女は友人たちの話を聞いてから、そのトンネルが「失われた道」と呼ばれていることを知っていた。
人々は、そこを通ることで普通の世界とは異なる何かに出会うと言っていた。
美はその不思議な現象を確かめたくなり、夜遅くにトンネルへ足を運んだ。

トンネルの入り口に立った瞬間、彼女は背筋に寒気を感じた。
周りには誰もおらず、ただ彼女の心臓の鼓動だけが響いていた。
トンネルの中に踏み入れると、薄暗い空気が彼女を包み込み、何かが視界の端で動くのを感じた。
彼女は恐れを振り払うように、少しずつ進む。

トンネルは静まり返り、ただ水滴が落ちる音だけが耳に入ってくる。
美は心を落ち着けようとするが、何かの気配が彼女を包み込んでいるように思えた。
そうして歩き続けていると、突然、目の前に小さな道が現れた。
それはトンネルの奥で分岐しており、その道には暗い霧が立ち込めていた。

無意識にその道に足を進める美。
道を進むにつれて、不安感が増していく。
ふと、彼女の目の前に薄陰のようなものが現れた。
それは、女性の姿を持った幽霊だった。
彼女の顔は悲しみに満ちており、何かを訴えるように指を差し示している。

美は恐怖で動けなくなったが、その女性の姿が「救い」を求めているように思えた。
思わず、「どうしたの?」と声をかけた。
幽霊はゆっくりと口を開いた。
「この道を進み、私を探して救ってほしい」と訴えた。
美は彼女の言葉に引き寄せられるように、さらに道を進む決意を固めた。

しかし、道はどんどん狭まり、彼女の心も次第に焦りへと変わっていった。
美はその先に何が待っているのか考え始め、恐怖と興味で心が揺れる。
やがて彼女は気づいた。
道の両側にはたくさんの人々の霊がにじんでおり、彼らもまた救いを求めていることを。

「この道を進むことで、失われた魂が安らぎを得られる」と美は思ったが、果たして彼女にその力があるのか不安になった。
道の先には、さらに不気味な霧が立ち込め、今までの静けさが崩れていく。

そして、彼女はとうとう道の出口に到達した。
そこには大きな扉があった。
扉には「救いの道」と刻まれている。
その時、彼女たちの中から一つの声が聞こえてきた。
「その扉を開ければ、私たちを解放できる。だが、あなた自身も失う恐れがある」と。

美は扉を前にして立ち尽くす。
彼女の心の中には葛藤が生まれていた。
自分の命を賭けてまで、見知らぬ者たちを救うべきなのか。
しかし、彼女はその瞬間、思い出した。
友人たちが恐れずにこの場所に来た理由。
人を助けるためには自らの犠牲も必要かもしれない。

決意を固めた美は、扉に手をかけた。
「行こう、私にはあなたたちを救う力がある」と呟く。
彼女は扉を引き開け、霧の中に足を踏み入れた。
すると、一瞬の静寂の後、無数の光が彼女を包み込み、魂たちの感謝の声が響いた。

その時、美は自分が何を失ったのかを理解した。
彼女はもはやこの世界に存在しておらず、霊たちの仲間となった。
しかし、その心は安らぎに満ちていたことを知っていた。
「救いは得られたのだ」と、彼女は微笑んだ。
あの道は、彼女自身の道となったのだから。

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