町外れにある古びた墟(まぼろし)の村。
その村は、かつて栄えていたが、今では無人の地となり、貴重な記録すら失われた場所となっていた。
多くの人々は、ここに近づこうとはしなかった。
なぜなら、村には「身が消える」という恐ろしい伝説があったからだ。
むかし、村には「雅彦」という青年が住んでいた。
彼は明るく、人懐っこい性格で、村の人々に愛されていた。
しかし、雅彦は、ある日、村の伝説を信じている仲間たちに誘われて、墟に足を運ぶことにした。
その好奇心は、彼の運命を大きく変えてしまうことになった。
村の入口を越え、彼は異様な静けさに襲われた。
風で揺れる木々の音や、鳥のさえずりも聞こえず、まるで時が止まったかのようだった。
踏み入れるたびに、雅彦は背筋を凍らせる感覚を覚えた。
彼は仲間たちと共に、墟の奥へと進んでいった。
やがて、彼らは古い廃屋にたどり着く。
壊れかけた屋根と、崩れた壁。
そこには、昔の人々がのこした痕跡が感じられた。
雅彦は、薄暗い屋内に入り、何か手がかりを見つけようとした。
だが、何も残されていないように思えた。
やがて、もう一度外へ出ようとしたとき、彼は一瞬、足が止まった。
「見て、あれ…」仲間の一人が指さした先には、薄ぼんやりとした影が動いているのが見えた。
ずっと昔、ここに住んでいた人々の姿のように見えた。
その影は、まるで彼らを呼ぶかのように手を振っていた。
「行こうよ、雅彦!あれは幽霊かも!」仲間の一人が興奮気味に言ったが、雅彦は強い不安を感じた。
「やめよう。これは引き返すべきだ…」それでも、好奇心が彼を引き止めた。
雅彦は村の伝説がただの噂ではないと薄々感じていたが、歩みを止めることができなかった。
影に近づくにつれ、彼の心臓は急速に高鳴り始めた。
しだいに、影の正体が見えてきた。
それは、村の人々の姿だが、何か異様な感覚が漂っていた。
彼らは無表情で、ただそこに佇んでいる。
雅彦は恐れを抱きながらも彼らに問いかける。
「あなたたち…?」
その瞬間、周囲の空気が一変し、静寂の中に奇妙な声が響いた。
「身を捨て、身を受け入れよ…」驚愕した雅彦は慌てて後ずさりするが、仲間たちはその声に何かを感じたのか、前へ進んでいく。
彼は仲間を引き留めようとするが、すでに仲間たちの目には別のものが宿っていた。
影は彼らに近づき、仲間の一人が反応した。
「何が起こっているんだ…?俺たち、何をしようとしているんだ?」彼の声に混乱が入り混じっている。
そのとき、他の仲間が叫んだ。
「逃げよう!戻れ!」と言った瞬間、影たちの手が伸びてきて、彼らを捕らえ、身を捨てるように囁いた。
雅彦はその場から全力で逃げ出した。
しかし、墟は彼を受け入れようとしていた。
振り向くと、影たちが、彼の身を引き寄せるかのように迫ってくる。
恐怖と絶望の中で、雅彦は逃げ、避け、何度も振り返った。
だが、今度は彼一人、孤独になっているのを感じ、追い込まれていく。
心に運命を背負った彼は、村の入り口にたどり着いたとき、ふと仲間の姿がなかったことに気づく。
「彼らは…どこへ…?」彼は振り返るが、墟の奥から響く笑い声だけが耳に残っていた。
結局、雅彦は村を離れることができたが、彼の中には消えた仲間たちの姿が、消えずに残り続けていた。
そして、彼は彼らの身を受け入れなかった自分を責め続けることになる。
そして、墟の存在を語り継ぐ者として、彼もまた運命に翻弄され続けた。