静かな町の片隅にある古びたアパート、その一室に住むのは、佐藤健太という若者だった。
健太は仕事でのストレスから逃れるため、毎晩夢の中で自由を求めるようになっていた。
彼の夢の中には、幻想的な世界が広がっており、そこでは彼の思い通りにすべてが進んでいた。
だが、次第にその夢は変わり始めた。
最初はただの楽しい冒険だった。
夜空を飛び回ったり、海の底で魚たちと踊ったりと、毎日のように異なる夢を楽しんでいた。
しかし、ある晩を境に、夢の中の景色は徐々に暗く不気味さを増していった。
健太はその夢にどこか違和感を覚え始めていた。
「こんな場所、見たことがない…」夢の中の彼は、薄暗い森の中を彷徨っていた。
木々は不気味に揺れ、周囲には何かを見守る目のように感じる影があった。
健太は胸の高鳴りを抑えながら、その場を進むことにした。
夢を楽しむはずが、なぜか彼の心には恐怖が忍び寄っていた。
進むにつれ、健太はふと気づく。
周りの影たちが彼をじっと見つめていることに。
まるで彼が何かを探しているか、何かを受け入れるのを待っているかのようだ。
夢の中の森は、心の奥底に潜む願望や恐怖が具現化した場所のように思えた。
そして、そんな彼の心の中に潜む悪の感情が、夢の世界を蝕み始めていたのかもしれない。
「逃げられない…どうすればいいんだ？」その時、健太は声を失った。
彼の耳元にささやく声が聞こえた。
「あなたの望むものは、すぐそばにある。」その声は、今までの楽しい夢とはまったく異なる、冷たく心をかき乱すものであった。
不安に駆られている健太の目の前に、金色に輝く小道が現れた。
その小道は、彼が望んでいた夢の果てへと続いているように見えた。
けれど、その道を進むことは、彼の内に潜む悪を受け入れることを意味するのではないかと、健太は心のどこかで理解していた。
彼はその小道に一歩踏み出そうとした瞬間、恐ろしい真実が頭をよぎった。
「この道を進めば、希望の夢と引き換えに他の誰かの悪夢を生み出してしまう…。」
その時、ふっと背後から誰かが近づいてくる気配を感じた。
振り向くと、彼の目の前には「幽」と名乗る謎の存在が立っていた。
幽は冷たい視線で彼を見つめており、その目は彼の心の底に潜む闇を見透かすかのようだ。
「夢を求めるなら、その代償を覚悟しなさい」と、その声は、森に響き渡る恐怖のささやきだった。
健太はその場から逃げ出したい一心で、暗い森を必死に駆け抜けた。
だが、森は彼を見逃すことなく、木々が彼の進行を阻むように動いていた。
次第に彼の心は恐怖で満たされ、パニックに陥っていった。
「夢を見たいのか、それとも現実を生きるのか…」幽の声が背後から消えない。
健太はその声を振り払い、必死に自分を保とうとしたが、恐怖、悪、そして願望が絡み合って、彼の心をますます蝕んでいった。
とうとう、彼は天を仰ぎ、「もうやめろ！」と叫んだ。
その瞬間、周囲の景色が一変し、暗い森が崩れ落ちる。
その瞬間、健太は意識を失い、目を覚ますと自分の部屋に戻っていた。
だが、彼が目を開けた瞬間、驚愕の現実に直面した。
彼はその日から夢の中で「幽」に導かれ、他者の悪夢を見守り続ける運命を背負うことになった。
彼の求めた夢は、他の無数の人々の悪を呼び込む契機となっていた。
果たして、彼の選択は正しかったのか。
健太は、その結末を思い知らされながらも、再び夢の中へと引き込まれていくのだった。
