その夜、川崎市にある古びた居酒屋「酔いどれ」に、大学生の健太とその友人たちが集まっていた。
居酒屋には、地元の人々が語り継ぐ不気味な噂があった。
この場所には、怨念が宿っているとされる古い灯籠があり、そこに近づいた人々が「消えてしまう」というのだ。
興味本位で肝試しをしようということになり、健太たちは居酒屋の裏手にある灯籠へと足を運んだ。
月明かりが燦々と照らす中、彼らは灯籠の横に立ち、ここで何か悪いことが起こったのかどうかを確かめることにした。
「多分、ただの噂だろ。そんなの気にするなよ!」と陽気な友人、弘樹が笑いながら言う。
健太は心配そうに言った。
「でも、記憶は記録されているんだ。ここで何かがあったんじゃないか?」
不安を抱えつつ、健太は灯籠に近づいた。
暗く影が伸びる灯籠の姿は、妙に神秘的でありながらも、どこか不気味に感じられた。
灯籠の周りに散乱する枯れ葉の中に、一つだけ光る石が見えた。
「見て、あれ!」弘樹が石を指さす。
皆は興奮して近づいたが、健太はその石を見た瞬間、胸がざわついた。
「触るな。何かが起きるかもしれない。」健太はその石に手を伸ばすのをためらった。
その視線の先には、消えかけた昔の記憶が宿っているような気がした。
「大丈夫だよ、ただの石じゃない?」ともう一人の友人、玲奈が石に手をかざした。
その瞬間、冷たい風が吹き抜け、灯籠の影が異様に揺らぎ始めた。
「何かおかしい、戻ろう!」健太は急いで仲間を引き戻そうとしたが、彼らはその場に留まった。
「ただの風だって、ほら、何も起きてないじゃん!」弘樹は笑っていたが、健太は嫌な予感を拭えなかった。
すると、灯籠の内部からかすかな低音の声が聞こえてきた。
「助けて……記憶を……」その声は震えており、まるでどこからか悲痛な願いが届けられているかのようだった。
「何だ、これ……!」玲奈は恐れをなして後退り、弘樹もその場の雰囲気に飲み込まれていく。
「ここから消えたいのか?」健太は一歩灯籠に近づく。
「君の名前は何なんだ?」
「助けて……私の光を戻して……」灯籠から語りかけるその声は、かつてこの土地に住んでいた少女のような響きを持っていた。
彼女は何かを背負っていて、その思いは時が経ても消えないのだろう。
健太は一瞬考えた。
自分たちは何を知っているのか。
消えてしまった彼女の記憶を取り戻す手助けができるのか。
その瞬間、彼の心に記憶が溢れ出した。
「私の名前は、光。光を求めているの……」その言葉が響くと、突然、周囲が暗くなり、灯籠は青白い光を放ち始めた。
友人たちは恐れで震え上がり、一歩も動けなかった。
しかし健太は、勇気を振り絞って叫んだ。
「光さん!あなたの記憶を戻すために、私たちに何が必要なんですか!」
「私の光を、心から祈り続けてほしい……」声が強く響き、健太はその言葉に従った。
「光を届けます!あなたの想いをここに取り戻します!」
冷たい風が吹き荒れ、灯籠の周囲が激しく揺れ動く。
健太は心の中で、彼女のために祈りを捧げた。
光の思い出を感じながら、彼は彼女が求めている明るい記憶を再生しようと決意した。
その時、視界が白くなり、まるで時が止まったかのように周囲が静まりかえった。
健太はそれに耐えながら声を上げた。
「光さん、あなたは決して消えてはいけない。私たちがあなたの光を守る!」
すると、灯籠の光が一層強くなり、まるで周囲の景色が明るく染まるようだった。
光が彼女とつながり、彼は彼女の記憶を取り戻していった。
次の瞬間、灯籠が静かにその役目を終えたように、光が消え去った。
健太たちの目の前に現れたのは、明るい光をまとった少女だった。
彼女は微笑み、消え去った。
「あなたたちが私を助けてくれたのね。ありがとう。」その言葉を残して消えた。
健太たちはあまりの出来事に言葉を失った。
その後、健太たちは居酒屋に戻り、あの夜の出来事を振り返った。
彼らの記憶には光の存在が、鮮明に刻まれていた。
消えた記憶が蘇り、その光は永遠に彼らの心に宿ることになった。