静かな田舎町に位置する古びた神社。
その神社には、境内の隅にひっそりと佇む小さな祠があり、村の人々から「消えぬ命の祠」と呼ばれていた。
この祠には一つの言い伝えがあった。
「命を求める者がこの祠に祈ることで、消えた者の存在を呼び戻せる」と。
しかし、代償は大きく、失った命の重さを理解した者は、ほとんどいなかった。
村に住む佐藤由美は、ある日、愛する祖母を事故で失ってしまった。
彼女は悲しみに暮れながら、何とか祖母の命を取り戻す方法を探していた。
その時、友人から「消えぬ命の祠」の話を聞いた。
由美は半信半疑のまま、祠に出向くことを決意した。
祠に着いた由美は、周囲の静けさに包まれた。
薄暗い影の中、祠は小さく、苔むした石で覆われていた。
彼女は心の中で祖母を思い、その存在を呼び戻すように祈った。
すると、耳元に祖母の声が響く。
「由美、お前は私を忘れないでいてくれるか?」その瞬間、由美は驚愕した。
声が確かに彼女の呼びかけに応えるように感じられたからだ。
しかし、祈りを続けていると、徐々に周囲の空気が変わっていくのを感じた。
気がつくと、祠の前には何か不気味な影が現れ、彼女に近づいてきた。
息を呑む由美。
影はいつの間にか一人の女性の姿となって目の前に立つ。
それは祖母だった。
「由美、私はお前のために戻った。しかし、全てが助けを求める訳ではない」と優しい声で語りかける。
「おばあちゃん、帰ってきてくれてありがとう。もう一度一緒に…」と由美は願った。
しかし、祖母の微笑みは、次第に憂いに変わっていく。
「私を戻すには、お前が何か大切なものを失わなければならない。そして、それは命の重さを知るものになる。」由美は困惑し、恐怖を感じた。
「何を失えばいいの?」
その瞬間、由美の周りの景色が急に揺れ始めた。
空気が変わり、彼女の目の前には同じ村の人々が現れ、どんどん姿を消していく。
彼女は混乱し、どうすることもできなかった。
その人々は、かつての祖母の知り合いであり、彼女の心の奥底に隠された大切な思い出たちだった。
祖母は一歩ずつ由美に近づき、やがてその影が彼女を包み込んだ。
「命を求める者は、自らも命を失う覚悟を持たねばならない。忘れないで、由美。あなたの中にある記憶が、私を呼び寄せる。」由美は絶望の中で涙を流した。
その後、由美が周囲を見渡すと、村は静まり返っていた。
彼女の目の前には、祠だけが残されていた。
全てが消え去ったようだった。
彼女は祖母の声が消え、祠に一人だけ残された。
失った者への想いが強すぎた結果、自らも命を呼び戻すことができず、孤独の中に留まっていたのだ。
今でも村の人々は、時折祠の前で誰かに話しかける由美の姿を見る。
彼女は消えた愛を呼び続け、互いに補い合うことができなかった幸せを胸に抱えて、存在し続けている。
消えぬ命の祠には、訪れる人々のさまざまな生の重さが溜まっていき、誰もが思い出の中で永遠に迷い続けるのだった。