「真の洞の囁き」

薄暗い洞窟の入口に、大きな石が転がっていた。
周囲には誰もいない。
リは友人たちと共にここに来た理由を思い出した。
それは、都市伝説で語られる「真の洞」の噂だった。
洞窟の奥には、真の姿を持つ霊が住んでいるとされ、その霊に出会った者には恐ろしい運命が待っているという。

リはその話に興味を持ち、仲間を誘ってここに来た。
ただの好奇心で、肝試しのように洞窟に入ることにしたのだ。
しかし、彼女の心には少しの不安もあった。
この洞窟には、闇が宿っていると言われていたからだ。

仲間の指示で懐中電灯を手にし、洞窟の奥へと進んでいった。
じめじめとした空気が肌をなで、洞の壁には水滴がたれていた。
周囲には静寂が支配し、彼らの声だけが響いている。
リは無言で歩き続けた。
周囲の暗闇が、まるで彼女の心の中に押し寄せてくるように感じられた。

洞窟の奥に進むにつれて、何か不穏な空気が漂ってきた。
リの心拍数が上がり、気分が悪くなってきた。
「大丈夫だよ、リ」と友人の一人が声をかけてくれたが、彼女はただ黙ってうなずくだけだった。
すると、突然、懐中電灯の光が揺らぎ、何かが映り込んだ。
リは驚いて振り返ったが、何もなかった。

「ねえ、みんな、少し休もうか…」リが提案すると、友人たちは同意してその場にしゃがみ込んだ。
しばらく静かにしていると、洞の奥から異様な音が聞こえてきた。
それは低い囁き声で、何かを伝えようとしているようだった。

リは恐怖に駆られ、仲間の顔を見ると、彼らも不安な表情を浮かべていた。
「これ、やっぱりやめない?」別の友人が心細そうに言った。
リはその言葉に頷き、早く出口を見つけたいと思った。
しかし、彼女が振り返ると、先ほどの入口はもう見えなかった。

「こ、これはどういうこと?」リは動揺して尋ねた。
友人たちも混乱している。
「もしかして、真の洞に入ってしまったのかも…」一人の友人がつぶやいた。
その言葉が、リの胸に恐怖を刻みつけた。

洞窟の壁には、恐ろしい絵が描かれていた。
人々が苦しむ様子や、無表情の霊の姿。
それらは、リの心に重く圧し掛かってきた。
「こんなの…、ただの演出じゃないの?」誰かが声を震わせながら言ったが、リはその言葉を信じられなかった。

そのとき、再び囁き声が耳に届いた。
その声は明確に、リの名前を呼んでいるようだった。
「リ、助けて…」という声は、まるで彼女に何かを訴えかけているようだった。
リの心はその瞬間、凍りついた。

「何か、いる…」リは恐怖で声を震わせながら言った。
友人たちは抱き合い、恐れを感じるあまり、一層息を潜めた。
すると、洞窟の奥からかすかな足音が響いてきた。
静寂の中に、徐々にその足音が近づいてくる。

心臓が鼓動する音が耳に聞こえそうだった。
リは思わず立ち上がり、洞の奥を見つめた。
そこには、濡れた髪をひらめかせ、真っ白な着物をまとった女性の姿が見えた。
彼女は無表情で立ち尽くし、リをじっと見つめている。
その眼差しは、まるで彼女が何かを求めているように感じられた。

リはその場に立ちすくむしかできなかった。
友人たちは怯えきっており、誰も動こうとしない。
女性の霊はゆっくりとリに近づき、彼女の目の前で止まった。
リの心に恐怖が押し寄せたと同時に、彼女は何かを伝えようとしていることに気付いた。

「あなたも…私のように、真の姿を見つめているの?」リは戸惑いながらも、声をかけた。
女性は一瞬、微笑んで見せた。
それと同時に、リの視界が揺らぎ、洞窟の中の風景が変わっていく。
彼女はかつて、この場所で大切なものを失った者なのだと気づいた。

「私は逃げられない…あなたも、私を助けてくれないの?」その言葉がリの心に深く突き刺さる。
リは微かに頷こうとしたが、その瞬間、洞窟全体が震え始めた。
霊の姿が不安定になり、再び暗闇に飲み込まれた。

リは恐怖と背中合わせに、その場から逃げ出したいと思った。
しかし、彼女の心には、過去を癒したいという願いが生まれていた。
真の洞に隠された、忘れられた歴史に関わりたいと思ったのだ。
目の前には、生きている人々に訴えかける存在がいるのだから。

洞の出口を目指して逃げるリ。
恐怖感に満ちた心の奥には、彼女が霊の思いを受け入れ、繋がろうとする力が宿っていた。
闇の中でも、彼女は決して一人ではなかった。
あの女性の存在は、彼女の心に深い影響を与えるのだった。

真実を知ったリは、これからどんな選択をするのか、心の中で迷い続けるのだった。

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