「森の犬の呪い」

深い森の奥に、忘れ去られた小さな村があった。
その村には、古くから言い伝えられている伝説があった。
それは、森の神が人々を見守っている一方で、森を侵す者には恐ろしい罰を与えるというものだった。
しかし、村人たちはその警告を忘れてしまった。

ある日、少年の健一は友達の太郎と一緒に森探検をすることにした。
二人は冒険心に駆られ、村の大人たちが決して行かないと言った森の深い部分へと足を踏み入れた。
そこには古い木々が立ち並び、ほの暗い空気が流れていた。
森の中を進むにつれて、周囲の音が静まり返り、まるで彼らが何かに見られているような感覚に襲われた。

「ねえ、健一。この森は本当に不気味だね。早く戻ろうよ。」と太郎が言った。
その言葉に健一も少し不安を感じていたが、好奇心が勝っていた。
「まだまだ奥に行こうよ。何か面白いものがあるかもしれない。」健一はそう言い、二人はさらに奥へ進んでいった。

森の奥には、巨大な石が無造作に転がっている場所があった。
その石の周りには、犬の像が数体置かれていた。
像は古びていて、目はどこか儚げに見えた。
「この犬、どうしてこんなところにあるんだろう?」健一が不思議に思いながら言うと、太郎は興味津々に近づいていった。

「触ってみようよ。」太郎が一体の犬の像に手を伸ばした瞬間、森の空気が一変した。
静まり返っていた森に、突然風が吹き始め、木々がざわめき出した。
二人は怖くなり、すぐに後ずさった。
その時、犬の像の一つが崩れ落ち、地面に埋まっていた古びた鉛筆のようなものが現れた。

「何かの印だと思う。掘り出してみよう。」健一が言い、二人はその印を取り出した。
すると、再び風が強く吹き始め、根元から木が揺れる音が聞こえた。
まるで森が怒っているかのようだった。

「戻ろう、健一。もうここにはいられない!」太郎の声が震えていたが、健一は引き返すことに抵抗を感じていた。
「ちょっとだけ待って。もう少しだけ見てみようよ。」そう言った瞬間、目の前の犬の像が、まるで生き物のように動き出した。
二人は驚いて声を上げたが、周囲はまるで談笑するように彼らを包み込む静かさに変わった。

「助けて…」と犬の像の一体が、かすかな声で呟いた。
その瞬間、彼らの視界が暗くなり、視界が消え、運命の渦に飲み込まれた。

気が付くと、健一は別の場所に立っていた。
森の中だが、朝日が差し込む明るさが漂っていた。
しかし、太郎はどこにも見当たらず、周囲には彼の声が響いていなかった。
まるで全てが夢のような感覚に包まれ、何が現実かわからなくなった。

慌てて周囲を探す健一は、ふと目の前に犬の姿が見えるのを感じた。
犬は彼をじっと見つめ、その目には悲しみが宿っているようだった。
「大切な友を助けてほしい」という叫びが健一の心の奥に響いてきた。
彼は自分が何をするべきか思い悩んだ。

その後、健一は村に戻り、太郎の行方を探し続けた。
村人たちは、健一が何を言っても信じてもらえず、次第に彼は孤独になっていった。
しかし、彼は太郎を忘れずに、森の神に捧げ物をすることで友を取り戻そうと決意した。

だが、彼が再び森に足を踏み入れた時、何もかもが変わっていた。
かつての静けさはどこにもなく、森は彼を拒むように険しい顔をしていた。
なぜか彼は友人が生きていることを感じていたが、彼自身の運命が森に消えゆく運命であることを知る由もなかった。
その瞬間、健一は森の力に飲み込まれ、再び消えてしまったのだった。

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