ある日の夕暮れ時、静かな村に住む高橋恵一は友人たちと共に、山の奥深くにある古い神社を探索することに決めた。
彼らはその神社の伝説を耳にしており、そこには「過去の清め」を求める者が現れると言われていた。
しかし、村の人々は、その神社には戻れなくなる危険があることを警告していた。
恵一は興味心と好奇心でいっぱいだった。
友人たちと共に神社に到着すると、周囲には不気味な静けさが漂っていた。
神社の境内には古びた鳥居が立ち、木々の間からは微かな風が吹いていた。
彼らはその場所の神秘的な雰囲気に圧倒されつつ、そのまま奥へと進んだ。
境内の中に入ると、恵一の目に留まったのは、一面に敷き詰められた小石の上に置かれた不思議な水鏡だった。
水面はまるで浮いているかのように静まり返っており、その中には過去の映像が映し出されているという噂があった。
興味をそそられた恵一は、水鏡の前に立ち尽くし、この神社の神秘を解き明かそうと思った。
「本当に過去が見えるのか試してみよう」と恵一は言い、友人たちもその後を追った。
彼が水面に手を伸ばすと、恐ろしい冷たい感覚が手を包み込み、目の前に過去の記憶が映し出された。
それは、小さな頃の学び舎での自分とそんな卓球の試合をしていた親友の姿だった。
恵一の心によみがえる甘い思い出。
しかし、映像が進むにつれて、彼の胸を締め付ける感触が増していった。
映し出される映像には、彼と親友が楽しそうに笑いあっている姿が映っていた。
その後、映像は暗転し、悲劇的な事故の瞬間に移り変わった。
事故の瞬間、親友が笑顔でバスを待っていたところから惨状が映し出され、恵一はその衝撃に声を失った。
彼は昔の自分に戻りたいという強い思いを抱き、無意識に水鏡を通り抜けようとした。
そのとたん、彼の意識は混乱し始めた。
水面に吸い込まれるように、身体が引き込まれ、彼はすぐに意識を失ってしまった。
友人たちは驚き、何が起こったか理解できずに恵一を呼び続けた。
「恵一、戻ってきて!」 しかし、彼の姿は水面に映っただけで、戻ることができなかった。
時間が経つにつれ、友人たちも諦めかけ、一旦外に出ようと決めた。
その間に、神社の雰囲気が変わっていくのを感じ取る。
周囲が暗くなり、不気味な気配が迫ってくる。
彼らは神社から離れようとしたが、すでにその場所は彼らを縛り付けていた。
恵一は水鏡の中で、過去の自分と親友の姿を見続けていた。
彼は戻りたいと思ったが、その思いは次第に薄れ、過去と現在が交錯する中で、彼の意識は混ざり合ってしまった。
彼はもう一度親友と会えるかもしれないという期待を抱きながら、その瞬間を待ち続けた。
一方、友人たちは神社の外で必死になって彼を探していた。
祭りの喧騒の中、誰かの声が遠くから響いてきた。
「何をしているんだ、恵一!戻ってこい!」彼らの叫びは神社に吸い込まれていく。
しかし、恵一はその声がどんどん遠くなっていくのを感じていた。
ある時、彼の目の前に親友の姿が現れた。
「ついに会えたね。やっと、戻ってきてくれたのかな?」と微笑む親友。
しかし、それは彼を取り込もうとする恐ろしい幻影だった。
やがて、激しい頭痛と共に恵一の意識が戻ってきた。
彼は水面を海のように掻き分け、自身が現実にいることを確認した。
だが、周囲には誰もいなかった。
何が起きたのか理解する暇もなく、彼はただ逃げることにした。
村に戻った恵一は、友人たちが待っているのだろうかと思いながら心に不安を抱えていた。
それから何日かして、村の人々は彼が神社に行ったことを知り、彼の名前は行方不明者のリストに加わることになった。
彼の友人たちは決して彼を忘れることはなく、時折、彼の名を呼び続けていた。
月明かりの下、彼らの前に再び現れる水鏡。
その水面には、今なお過去を振り返り続ける恵一の姿が映し出されているという。
過去に引きずられた彼は、もはや戻ることができなかった。
彼の叫びは、風に乗って消えゆく。