「失われた声の森」

木々が鬱蒼と生い茂る古びた森。
それは村の人々から忌避されている場所だった。
特に、深い夜になると、森の奥から響く不気味な音が、恐怖を一層掻き立てるのだった。
この森には伝説があり、それを耳にした人々は森に近づくのをためらった。
噂では、森の奥深くには、「失われた声」があると言われていた。

ある夜、高校生の健太は、友人の亮と共にその森へと足を運ぶことにした。
彼らは恐怖を感じながらも、仲間内での「失われた声」の真実を確かめるため、意気揚々としていた。
興味本位と悪戯心から入った森は、月の光を受けて不気味に光を放っていた。
松の木々は彼らを包み込み、暗闇が静寂の中に広がっていた。

「本当に大丈夫なのか?」亮が心配そうに尋ねる。
健太は笑って「大丈夫だよ、伝説なんて所詮はウワサさ。」と返した。
しかし、その言葉が口に出た瞬間、突如、冷たい風が吹き抜け、二人は驚いて立ち止まった。
まるで森が彼らを警告しているかのようだった。

しばらく進むと、突然、目の前に大きな石碑が現れた。
石碑には、古い文字で「失われた声を求む者、森の奥へ進め。」と刻まれていた。
興味を惹かれた二人は、無意識にその道を進むことに決めた。
途中、健太は不安を覚えたが、自分の好奇心を押し殺し、亮の後ろについて行った。

奥に進むうちに、深い闇になっていった。
その時、亮が不意に立ち止まり、真っ白な顔をしている。
「何か…聞こえる。」彼は震える声で言った。
健太は耳を澄ませ、周囲を見渡した。
すると、かすかに囁くような声が聞こえてきた。
「助けて…助けて…」

その声は、まるで誰かが助けを求めているようだった。
二人は足を速め、声の元へ向かうことにした。
やがて、彼らは小さな小屋を見つけた。
小屋の中から声が漏れ出ており、まるで誰かが中に閉じ込められているかのようだった。
恐る恐る近づくと、「助けて…出して!」という声がさらに強く聞こえる。

「どうする?」亮が不安そうに聞く。
健太は「行こう、助けてあげるんだ。」と言った。
しかし、小屋のドアを開けた瞬間、冷気が二人を包み、暗闇の中に引き込まれるような感覚を覚えた。
小屋の中には、薄暗い灯りの下、無数の人々が跪いていた。
その顔は恐怖と絶望に歪んでいた。

「あなたたちも、失われた声を求めるのか?」一人の女性が目を開けて言った。
彼女の言葉に迷いが生まれた。
健太はその瞬間、「失われた声」の真実を思い知ることになった。
彼らはその声に魅了され、無意識に森の奥に引き込まれていったのだ。

「私たちは助けようとしているんだ!」健太が叫ぶが、その声は無力だった。
周囲は次第に暗闇に包まれ、声は薄れていく。
亮は絶望的な表情を浮かべ、「戻らなきゃ…逃げなきゃ!」と叫んだが、彼の足は動かなかった。

その時、健太は冷静さを取り戻し、亮に向かって叫んだ。
「亮、私たちの声を返せば、みんな助かる!」彼は手を伸ばし、周囲の人々の手を掴んだ。
集まる人々の目が輝き始め、少しずつ元気を取り戻していった。

「きっとこの場所から逃げられる。」健太は自分を鼓舞し、亮に「一緒に声を合わせよう!」と提案した。
亮もやがて声を上げ、周囲の人々もそれに続いた。
恐怖を振り払うように、唱え始めた。
すると、奇跡的に光が差し込み、森の暗闇が徐々に晴れていった。

やがて、彼らはその場を離れ、小屋を出た。
背後からは不気味な声が消え、森の静けさが戻ってきた。
健太と亮は無事に村へ帰り、森の伝説を語ることができた。
しかし、彼らの心の奥底には、危うく失った声と、救われた命の記憶がいつまでも残っていた。

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