「夜の園に潜む微笑み」

ある静かな夜、自宅の庭にはいつもと違う雰囲気が漂っていた。
百合の花が咲き誇るその園は、日中は陽の光を浴びて煌めいていたが、月明かりの下ではどこか幽玄な姿に変貌していた。
小さな家の窓からは、家族の明かりが漏れているが、夜の静寂から生まれる恐怖感は、家の外にいる時ほどの安心感を奪っていた。

家族は和樹とその両親、そして妹の美咲の四人だった。
普段は穏やかな家庭であったため、和樹はこの夜、何か特別なことが起こる気がしていた。
そして、その直感は正しかった。

月が登り、ほんのりとした薄明かりの中で、和樹は美咲を連れて家の中に戻ろうとした。
しかし、ふとした瞬間、園の奥にある古びた遊具が目に留まる。
その遊具は何年も前から使われていないようで、草に覆われていたが、一際華やかな色合いを保っていた。
和樹はその遊具が気になり、妹と共に立ち寄った。

「これ、昔遊んだね」と美咲が笑いながら言うと、和樹は微笑み返した。
しかし、次の瞬間、二人の視線は遊具の影に引き寄せられた。
そこには何かが居る気配がした。
彼は思わず息を呑む。

「誰かいるの?」美咲が言ったが、返事はなかった。
遊具の影にこっそりと目を凝らすと、そこには見慣れない少女が立っていた。
彼女は華やかな服をまとい、恐ろしいほど静かに微笑みながらこちらを見ていた。
その笑顔の奥には何か不気味なものが隠されているように思えた。

和樹は心のどこかで抗う気持ちが芽生えた。
この少女が自分たちに近づいてくるのを許してはいけないと感じた。
美咲もその少女に気がついたらしく、少しずつ後ずさっていた。
しかし、少女は無言で彼らを見つめ続けたままだった。

「戻ろう、美咲」と和樹は言ったが、不思議と足が動かなかった。
まるで、少女の視線に捕らえられてしまったかのようだった。
次第に、少女の笑顔がどんどん不気味さを増し、和樹は恐怖に震え上がった。
彼が何かを言おうとするたび、彼の口からは言葉が出なかった。

突然、遊具から軽いガラガラという音がし、風が吹き抜けた。
その瞬間、和樹は理性を働かせ、妹の手を引いて強引に後退した。
少女がそこに居る限り、自分たちはこの家に居ることが許されないと直感的に感じたのだ。

「逃げろ!」和樹が叫ぶと、美咲はその声に反応した。
二人は園を駆け抜け、無我夢中で家の中に飛び込んだ。
扉を閉めると、ようやく二人は安堵の息をつく。
しかし、心臓がバクバクと鳴り、恐怖の影がまだ彼らの後ろに迫っているように感じられた。

その夜、カーテンを閉めてベッドに入ったものの、和樹は眠れなかった。
何度も振り向くと、窓の外には少女の姿は消えていたが、その不気味な笑顔は忘れられなかった。
そして、彼は「なぜ彼女は私たちを呼んでいたのか」と、抗う気持ちに言い聞かせた。

数日後、和樹は再びあの遊具のことを考えた。
彼はあの少女に対する好奇心と恐怖を抱き続けていた。
そのため、思い切って家族に話してみることにした。
しかし、彼らは心配しながらも、「ただの夢だ」と言って聞き流した。

それでも、和樹は真実を探るため、遊具に戻る決意をした。
夜が更け、再び訪れたその場所では、少女の姿はないものの、周囲に漂う不協和音が耳に響いていた。
彼は恐怖に抗いながら、そこに立ち尽くしたまま、あの不気味な夜の出来事を思い出していた。

果たして少女はどこにいるのか。
彼女の笑顔の裏に秘められたものは何か。
和樹はその問いを抱えたまま、今も彼女の存在を感じながら、暗闇の中に留まっているのだった。

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