深い森の奥にひっそりと佇む廃れた図書館。
そこは、かつて多くの蔵書に囲まれていたが、現在はほとんどが朽ち果て、本の表紙には埃が積もり、時折、風が吹くとその音に耳を澄ました者が奇妙な感覚に襲われる場所だった。
村人たちはこの図書館に近づくことを避け、「書かれた者は消える」との伝説を語り継いでいた。
ある日、友人の佐藤健と川村美咲は、肝試しとしてこの図書館に向かうことにした。
友人たちの間で話題になっていたこの場所に、興味と好奇心が勝ったのだ。
特に美咲はホラー映画好きで、この図書館での心霊体験を期待していた。
健は半信半疑だったが、美咲の興奮に巻き込まれてしまった。
二人は夕日が沈む頃、図書館に到着した。
廃墟と化したその姿は、想像以上に不気味で、健は心の中で不安が膨らむのを感じた。
しかし美咲は笑顔を浮かべ、「さあ、中に入ろうよ!」と踏み込んでいった。
健も渋々、その後を追って中に入った。
真っ暗な図書館の中は、古びた本棚と黄ばんだページが散らばっていた。
二人は懐中電灯を持ち、なんとなく興味本位で本を手に取った。
すると、急にドアがきしみ、二人は戦慄した。
でも、それは風のせいだと自分たちに言い聞かせ、次第にワクワクした気持ちで本を探り始めた。
ふと、美咲が手に取った一冊の本に目が留まった。
「タイトルが書かれてない……」疑問に思った健が近づくと、美咲は興奮した様子でその本を開いた。
「中に何が書いてあると思う?」彼女は驚きの声をあげた。
健が覗き込むと、中にはすでに何かが書かれていて、しかもそれが二人のことのように見えた。
「何!? これは私たちのこと?」美咲は興奮しながら言った。
見ると、ページには「佐藤健は恐れて、本を閉じた。川村美咲はそのことに気づかなかった」と書かれていた。
健は瞬時に恐怖に駆られ、「これ、マズイかもしれない。順番が関係しているのかもしれん」と言った。
美咲は笑いながら、「そんなわけないよ、そんなのただの冗談じゃん」、彼女は本をもっとめくる。
しかし次のページには、「彼女は罠にかかることを知らず、彼を信じて進む」と書かれていた。
二人は顔を見合わせ、次第に恐怖が広がった。
健は「帰ろう」と言ったが、美咲は興味が勝り、「もう少しだけ!」と本に夢中になっていた。
次の瞬間、健の懐中電灯が消え、真っ暗闇に包まれた。
「美咲、ライトを……」と言った瞬間、彼は彼女の声が遠くから聞こえるのを感じた。
「助けて、健!」その叫び声に、健は恐怖に震え、必死で声を探し続けた。
冷や汗が背中を流れ、ようやく懐中電灯のスイッチを入れると、その光で目の前に一冊の本が光っていた。
「最後のページに全ては書かれる」との文言が見えた。
健は恐る恐るその本を手に取り、ページをめくると、そこには「二人は共に消える」と書かれていた。
一瞬、目の前が真っ白になり、次の瞬間、美咲の姿がふわりと空中に浮かんだ。
彼女の周りには薄暗い影が渦巻いていた。
「美咲!」と叫ぶ健の声は、彼女のもとには届かなかった。
美咲は恐怖の表情で、「健、私を助けて!」と叫ぶ。
その瞬間、健は覚悟を決め、無我夢中でページをめくり続けた。
「消えない、消えないで!」彼はその言葉を呟くたびに本に祈りを込めた。
ところが、最後のページには「書き手が消えた後、読み手は一生孤独」との文が。
その瞬間、健は不思議な感覚に包まれ、自分がどこか別の世界に引き込まれる感覚を感じた。
美咲はまだ消えかけたままだった。
「健、私を忘れないで!」その言葉が救いに思えた瞬間、健は全てを放棄し、彼女を抱きしめていた。
二人の運命は交錯し、互いの思いが強固に繋がった。
気がつけば、図書館から脱出した二人は、あの日のことを語ることも出来ず、ただ静かに日常に戻るだけだった。
しかし、その本は今でも図書館の片隅にあり、今後も新たな物語を紡いでいくのだろう。
彼らを待ち受ける、次の victim を求めて。