「忘れられた学校の影」

静かな夜、廃墟となった学校がひっそりと佇んでいた。
かつては子どもたちの笑い声で賑わっていたこの場所も、今では廃材となり果て、荒れ果てた草が生い茂るだけだった。
深夜になると、誰も近づかないその場所には、言い伝えられている鬼の存在があった。
鬼といっても、怖ろしい姿ではなく、ただ強い執念の奔流がこの場所を包み込むような存在だった。

ある晩、大学生の健太は、友人たちに「心霊スポット」を探すことになった。
仲間の陽子と太一とともに、笑いながらその学校の廃屋に足を踏み入れる。
灯りが消えた闇の中、三人は不安と好奇心が交錯する。
その廃墟の一角に足を運び、一晩中怖い話をし合うことにした。

健太が語るコワい話は、学校を去った生徒たちの未練についてだった。
「ここには、ずっとこの場所に残っている鬼のような存在がいるんだって。その正体はさ、学校に絶望を抱えていた生徒の魂なんだ。」彼の声がかすかに震えていた。

陽子はその話を聞き、心底恐れて反論する。
「そんな話、本当に存在するの? ただの噂じゃないの?」だが、健太は頑なに続ける。
「それが本当なら、ここで何か感じるかもしれない。」

その瞬間、突然冷たい風がただの空気を切り裂くように吹き抜けた。
それに驚いた三人は、次第に感じ始める。
どこからともなく響く、まるで遠くの方から聞こえる子どもたちの笑い声。
しかしその声は、徐々に変わり、悲しげな泣き声へと変わっていった。

「何かいる…!」と、太一が叫ぶ。
健太は、どこからか見えない存在が迫ってくるのを感じていた。
彼の背筋が寒くなる。
まるで何か、彼らを見つめている視線があるような気配だった。

その時、陽子が叫び声を上げた。
「助けて!誰かいるの?」その声に答えるかのように、彼らの目の前に薄暗い影が現れた。
姿は、かつてこの学校に通っていた子どもたちの姿をしていた。
その目は、深い悲しみを宿していた。

「ここは楽しい場所だったのに…」誰もいない空間から、そんな独り言が漏れた。
三人は恐怖に立ち尽くし、目の前の鬼のような姿は、彼らが知る現実からかけ離れた形相を浮かべていた。
彼らはただ、執拗に自分たちの過去を語り続ける。

「私はここでずっと待っている…友達が戻ってくるのを」と、彼らの言葉は悲しみと共に響き渡る。
「執念のように、私たちを解き放つことができない。あなたたちもこの場所に留まることになる。」

その瞬間、健太の心に浮かんだのは、彼のかつての思い出。
廃校で墓のように沈んだあの子の笑顔と、別れの痛み。
彼は思わず口に出す。
「申し訳ない…私たちは忘れてしまった。でも、あなたの思いは決して無駄にはさせない。」その言葉は、彼の心の中の何かを動かした。

その言葉を聞いた瞬間、鬼のような姿は少しだけ和らいだ。
「本当に私たちを忘れないでくれるの?」と問いかける。
その瞬間、空気が軽くなり、薄暗い影はほころび始めた。

しかし、その一瞬が終わると、鬼は再びその悲しみに満ちた目を向け、その姿を消していった。
三人は言葉を失い、黙ってその場を後にした。
彼らの中には、鬼の存在がどれだけ強い執念で結びついているかを感じずにはいられなかった。

そして、帰り道で陽子は呟く。
「私たち、またこの場所に来たいと思える?」健太は静かに答える。
「いや、もう来ない方がいいかも。ただ、あの鬼たちの声を忘れないようにしよう。」

それ以来、三人は二度と廃墟へ足を踏み入れることはなかった。
しかし、その夜、彼らの心の中には、絶望と希望が交錯した鬼の存在が影を落としていた。

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