地の果てに位置する小さな村、名もなき村。
そこでは古くから伝わる言い伝えがあり、村人たちの間で忌み嫌われていた。
伝説によれば、村の北側の山を登った先に、霊が棲むとされる廃墟があった。
その廃墟は「讐の家」と呼ばれ、近づくことすら許されなかった。
ある夜、青年の名前は健一だった。
健一は村の者たちが耳にする度に怯え、避けていた「讐の家」に興味を持っていた。
彼は何度かその廃墟の噂を耳にし、その不気味な存在に心を惹かれていた。
しかし、村の古老たちから聞かされた恐ろしい物語は、彼の好奇心をますます刺激した。
讐の家には、かつて他人を憎んで果てなき復讐を望んだ者たちの怨念がこもっていると語られていた。
決心を固めた健一は、月明かりの照らす中、ついに讐の家のある山を登り始めた。
夜風が肌に冷たく、心臓が鼓動を打つ。
そのなか、健一は薄暗い森を抜け、ついに廃墟の前に立つ。
灰色の石に覆われたその家は、かつて誰かが暮らしていたと思われるが、今は無残な姿をさらしていた。
玄関は壊れかけ、壁には無数のひびが走っている。
不安を感じながらも、健一は恐る恐るその家の中に入った。
中は暗く、異臭が漂っていた。
時折、風が吹き抜けるたびに、彼の心はざわめき、全身が緊張する。
彼は奥の部屋へ進んで行った。
そこで彼を待ち受けていたのは、かつてここに棲んでいた者の怨念だった。
部屋の中央には大きな鏡が立てかけられ、その前に何かの形をしたものが現れていた。
それは影のようであり、健一の動きをまるで模倣するように震えていた。
彼は恐怖を感じつつも目を離せなかった。
その瞬間、鏡の中の影が動き出し、彼に向かって叫ぶように手を振った。
叫び声は無音でありながら、その恐怖は心に直接響いてきた。
「復讐の果てに何が待っているのか、分かるか?」
健一はその言葉に驚愕し、焦りを感じた。
しかし、逃げることができなかった。
彼は影の姿が自分自身の顔と重なっていることに気づいた。
それは彼が普段抱えている恨みや未練が反映されていたのかもしれない。
母国を離れ、一人で苦しみに耐えた日々。
その全てが、今ここで彼の目の前にいる。
影は懐かしい声で囁いた。
「恨みを抱くことは、時に必須だ。だが、その先には、本当に何が待っているのか。」
健一は心の奥底に刺さった言葉を噛みしめた。
讐の家に巣食う者の恨みが、自分にも通じていることに気づいてしまった。
彼は反射的に後退り、逃げようとしたが、影は彼に近づいてきた。
恐怖のあまり彼は目を閉じ、心の中で思った。
このままでは彼の人生が台無しになってしまう。
その時、振動が彼の体を貫いた。
何かが彼を奮い立たせた。
嫌な記憶を振り払い、今までの自分を脱ぎ捨てるように、健一は勇気を出して叫んだ。
「もう、加害者の恨みを引きずるのはやめる!復讐なんて、私にはいらない!」
その瞬間、影は一瞬消え去り、鏡の中の映像が変わった。
彼の前に立っていたのは、明るい光を放つ自分自身だった。
恨みではなく、希望に満ちた姿。
それは彼の心がやっと解放された証だった。
そして、健一は急いでその場を離れることを決意した。
急いで家を出ると、月明かりの下、彼は新たな気持ちで山を下った。
健一は、恨みを抱えることの無意味さを理解し、それを乗り越えたのだった。
そして、自分の人生を取り戻すために、村じゅうの者たちに新しい未来を見せる覚悟を固めていた。